大和但馬屋日記

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どいたつてや

考へてみれば、「どいた、どいた」などといふ類は方言ではないにしても、ある地域性でもつて使はれる言回しではないか。日本全国津々浦々で普通に用ゐられる言葉ではない。といふか、はつきりいへば江戸ッ子言葉だらう。
大阪では「どいたつて〜」などと言ふことが少なくない。「どいて」では直截にすぎるので、「私の為にどいてあげてください」と表現するのである。如何にも関西風オブラートに包まれた言回しだ。
岡山なら「どきねー」、瀬戸内の島では「どかんせ」といふ。「どきねー」は「どきな!」といふイメージか。「どかんせ」はかの有名な「とほりやんせ」と同じで「おどきなさい」といふ古い都言葉だらう。「どかんせ」は岡山でも使ふかもしれないが、島の方で「どきねー」とは多分言はない。同じ県内でも本土と島嶼部では言葉が違ふ。島嶼部の方が古い上方言葉が変化なく使はれてゐる様に思はれる。地方によつては言葉に敬語表現が無いこともある。淡路島で土地の人の言葉を聞いてドキッとしたが相手に悪気は全くない、なんてこともあつた。
何が言ひたいかといふと、言葉と態度は必ずしも対応しない(慇懃無礼といふ言葉もある)訣で、言葉を使ふ限り文脈から切離した解釈などは為されるべきでない。話し言葉ですらさうなのだから、書き言葉なら尚更である。
これはもちろん、書く側が文脈を意識しなくていいといふ話では全くない。まあ、意識するしないは勝手だが、それで不本意な読取りをされても怒れないよといふ話。

  • 2005年09月07日 funaki_naoto 『[ことば]「古い上方言葉が変化なく使はれてゐる様に思はれる」「地方によつては言葉に敬語表現が無いこともある」』