大和但馬屋日記

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冒險野暮天島

Surfaceが修理から戻つて來た。まあ修理といふより交換だらうが、ともあれ無料の樣だ。水漏れなので多少の出費は覺悟してゐたが助かつた。


目にして「うへえ」と思つてしまつた。あまり人のことは言へないが、とんだ野暮もあつたものだ。「首相があそこで發砲許可を出してゐたらあの時のゴジラ倒せてた」と監督が言つてゐたからさうしなかつた首相は保身に走つた無能。いや凄いわこれ。もう映畫なんか觀ずに監督の言葉だけ追つかけてればいいよこれ。
品川驛近邊の未確認生物に對する攻撃の可否判斷は、所謂「トロッコ問題」を分り易く映像にしたものだ。止める術なく暴走するトロッコの分岐の先の兩方に望ましくない結末がある時、どちらの分岐を選ぶべきかといふ葛藤がそこでは描かれてゐる。砲口の先に守るべき國民が居る時、そのトリガーを引く許可を與へる訣がない。その時の首相は決然とさう判斷した。
監督が言つたのは選ばなかつた分岐の先の提示にすぎなくて、映畫の中の人物にとつてはその分岐が正解であるといふ確証など何もない。民間人を巻添へにした擧句に未確認生物も倒せない可能性は當然あつた筈だ。あの時の首相の取り得る選択肢は二つだが、それで得られる結果は最低でも五つとなる。

  1. 發砲許可をして、民間人は無事で、未確認生物を倒せる。
  2. 同、民間人を巻添へにしながら未確認生物も倒せる。
  3. 同、民間人を巻添へにした上に未確認生物は取逃す。
  4. 同、民間人は無事だが未確認生物は取逃す。
  5. 發砲許可を出さない。民間人は無事だが未確認生物は取逃す。

この内、四つ目と五つ目は結果として同じスコアになる。最良のスコアは一つ目で、二つ目は苦澁を伴ふ次善のスコアで、三つ目が最低のスコアとなる。さてどれに賭けるね?
例へば米國の大統領なら迷はず許可を出して、一の結果を得ようとするだらう。では日本の首相はどうか。籤の當落の判らぬ賭けの中で、五分の二の「最惡よりはマシなスコア」を引けて、しかもそれは選択肢の片方でほぼ確實に得られるのである。
咄嗟に突きつけられた決斷でそれを選ぶのを「保身」と評すべきかどうか。觀客に問はれてゐるのはそこ。監督の言葉は、見えない神樣が「あーあ、こつちを引いてれば大當りだつたのに」と言つてみせてゐるのにすぎなくて、その神託を見て「そつちを選ばなかつた首相は無能、何故なら神がさう言つてゐる」なんてね、馬鹿馬鹿しいにも程がある。
こんな物の見方をするくらゐなら作り手の言葉なんて見聞きしない方が絶對にいい。解釈に絶對はないとしても、だからこそ「総監督の出した裏情報が正解」なんてのは愚の骨頂だ。