大和但馬屋日記

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神話はかく作られる

"【追記】ジョブズがiPodを水没させる逸話はウソである、フェイクだっていいじゃない - ネットロアをめぐる冒険"
メーカーの偉い人が部下の作つた携帶機器を目の前で水没させて發生した氣泡を見て「まだ小さくできる」と指摘したといふ話。これがソニーの話であるのは人類の常識だと思つてゐたが、いつの間にかジョブズの事蹟に掏替へられてゐるらしい。ただ、自分もハンディカムではなくウォークマンの話と勘違ひして覺えてゐたのであまり偉さうには言へない。ともかくも、ジョブズのかうした神話化にはうんざりだ。ソ二ーの逸話自體も同じ文法で語られるものばかりでそれもうんざりだ。
逸話の掏替へといふと「パックマンは食べかけのピザの形から思ひついた」といふアレがあるなあ。パックマンのあの形を静的なデザインとしてしか見てない人の發想だよそれは。一九八〇年當時、日本人にとつてパックマンの樣な形に切取られたピザはそれほど一般的ではなかつた。まだ宅配ピザなんてものも日本には無かつたし、イタメシブームももつと後の世のことで、フルサイズの丸いピザを目にすることがどれほどあつたらうか。
そして何よりこの話にははつきりと元ネタがある。ピザの形から思ひ付いたとされる有名な造形物といへば「スターウォーズ」のミレニアムファルコン號で、それはパックマンの三年も前に世に出てゐるのだ。どう考へてもパックマンの話は後付けであらう。
パックマンのキャラクターデザインはゲームシステムをそのまま形にしたものだ。迷路に配置されたエサを縦横無盡に喰ひ散らかす、その「動き」はピザの形から思ひ付いた「デザイン」から出てくるものではない。作者が假に昔さういふことを言つたのだとしても、きつとそれは本當ではないのだらうくらゐに自分は思つてゐる。これも八〇年代にあつたナムコの神話化の一端だつたのだらう、と。