昨日が出勤日だつたので、貴重な休日が削られたといふ氣持の反動が出て、よせばいいのに朝から自轉車を擔いで赤い電車に飛乘つた。乘つたのが豐川稻荷行だつたのでそこから豐橋を經由して渥美半島を目指すことにして、豐橋驛のコインロッカーに荷物を預けて少し身輕にした。旗一本。
ざつと地圖で目星をつけて、反時計廻りに半島を一周しようと考へ、走り始めたらいきなり盛大に迷つた。
途中、自動車専用にしか見えない(しかしその標識はない)橋まで渡らされ、訣の分らぬ地元の人も通らない樣な道も行き(歩道がどこにも通じてをらず、ただ地蔵だけが點々と祀られてゐる)、踏みたくないゴミを澤山踏んでしまひ、距離にして十キロメートルも無駄に走つてしまつた。旗二本。
まあそんなこんなでともかくも渥美半島の北側を五十キロ程走つた。大きな半島でそこそこ廣い平地と山があつて、温暖で、何といふかモデル的な「日本の田舎」といふ感じだ。便利と不便でいへばやや不便に寄つてはゐるかもしれないが、それでも適度な方だと思ふ。たまに訪れるには惡くない。旗三本。
半島の先端、伊良湖岬からは伊勢方面へのフェリーが出てゐて、囘漕店が道の驛としても整備されてゐる。大淺蜊の燒いたのとジャコ飯の定食をいただいて、ちよつと遅い時間なので慌て氣味に走り出した。伊良湖岬から半島の南岸沿ひにはサイクリングロードが整備されてゐるので樂に走れる、筈だつた。二キ口ほど結構な上りを走つて息を切らすが、そこからの眺めはまあ絶景かな絶景かな。
この冩眞を撮つてゐるまさにその時、一番聞きたくない音が聞えた。パン。プス一…。
パンクである。たかがパンクである。いつもならそれで濟む話なのである。いつもならね。しかし今日はといへば、明らかなミスを犯してしまつたのである。豐橋の驛に立寄つた際、大きなサドルバッグの中に小さなサドルバッグを收めたままコインロッカーに入れて施錠してしまひ、緊急度の高い道具の收まつた小さいサドルバッグを取出すべきか逡巡した末に三百円を惜しんで「まあいいか」とそのままにしてしまつたのだ。全く詰らないフラグを立てたものである。そして道に迷つて舗装の荒れたゴミだらけの道路に迷ひ込んだのだから、何か起らない方がをかしい。
途方に暮れて、最寄のタクシー會社に電話をしたら「自轉車は駄目」と斷られてしまつた。輪行袋はあるからと説明しても駄目なもんは駄目と。不幸中の幸ひはまだ「人里」から二キロしか離れてゐないことで、ともかくも道の驛まで戻つてどうするか考へた。もう時刻としては夕方だし明日は仕事、自轉車を押してどうかうはできない。幸ひここからバスは出てゐるが、勿論自轉車は乘せて貰へないだらう。仕方なく、フェリー乗場の窓口に行つて「駐輪場に一週間自轉車を置いたままにさせて載いてもよいか」と尋ねてみたら快諾して載けたのでバイクラックにロックしておいた。
後ろ髪を引かれる思ひで一時間に一本のバスに乘る。最寄の鐡道驛である三河田原驛まで凡そ一時間、そこから豐鐡と名鐡を乘繼いで身一つで家に歸つた。詰らない判斷ミスで随分な代償を拂ふことになつてしまつたが、一事が万事。大きな事故に繋がることでなかつた好運に感謝するばかりである。
次の休みまで氣が氣でない。