大和但馬屋日記

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69.95kg 17.4%


一月にローラーを買つた時点では、ただ体重を減らしたいといふ以外の目的はなかつた。他に何かあつたとしても、精々三本ローラーといふ不思議な道具を験したいといふ「物」に対する興味くらゐのものだつた。それからしばらくして、勤務先で鈴鹿8時間エンデューロのエントリー募集の話を聞いて、「それなら」と手を上げた。この時点でそれまでボンヤリしてゐたローラーでのトレーニングに具体的な目標ができた。ローラーで回した距離を六キロメートルで一周を単位とし始めたのもさういふ訣だ。
そしてつひにイベントの本番を迎へた。直前に「スプラトゥーン」が発売されたのは誤算だつたが、これがなくても前日は運動をしないつもりだつたし、ここ数日の体重が増え気味になつてゐたのも食事の量を敢へて増やしたからである。満を持してといふには程遠いけれども、それなりに準備をして臨んだつもりだ。とはいへ現地到着してろくに打合せもなく「出走者はコースに集合して下さい」のアナウンスに慌ててコースインしてしまつたといふ体たらくで、その他色々あつてあまりよい走行データは取れなかつたが、何よりもまづは経験。
レースがスタートして一周目は加減もよく分らないので好きな様に走つてみた。丁度コントロールタワーの辺りから始まつて、鈴鹿国際レーシングコースを通常とは逆回りに走る。なぜ逆回りかといふと、順走ではホームストレートが下り坂になるため危険なのである。最終コーナーからシケインにかけてはいきなりの激坂で、これは普段のレース観戦でも感じてゐた部分だがいざ登つてみると想像を遙かに凌ぐきつい坂だつた。そこから130Rを経て立体交差、西ストレートのピット前までは微妙に下つてゐるのか上つてゐるのか判らず、ただ「平坦ではない」ことだけは判るといふ不思議な区間。西ピット入口からスプーン手前までー旦大きく下つて、スプーン出口(順走時)でコース一番の急激な上りとなる。ここは否応なく一番軽いギアを使ふことになる。このスプーン二個目のエイペックスに差掛ると途端に道は平坦になり、スプーン入口から200R出口までは微妙に下りになり一気にスピードが乗る。200Rの二輪用シケイン手前では軽い上り、そこからへアピンまでは一気に下つて行く。へアピンは下りの急力ーブだが、流石に一般道の曲率とは全然違ふので自転車の速度域ではペダルをブン回しながら曲り切ることができる。ここは二番目に楽しい。
へアピンから立体交叉をくぐつてデグナーの二つ目までも下りで加速しつぱなし、擦り鉢状のデグナー二つ目をクルッと回つてデグナー一つ目までは少し登つて、ダンロップまでも軽い上りで漕いで行く。ダンロップから逆バンクまでの下りがこのコースの最高に楽しい区間で、何もせずただ下るだけでも50km/hを軽く超えるし全力で漕げぱ60km/h近くまで加速して、そのまま逆バンクを曲り切れる。そこからS字を抜けて第二コーナーまでもずつと高速コーナリングを楽しめる区間で、生れて初めて「自転車つてこんなに楽しい乗物なんだ」と思へた。一般道だとこんなに楽しい走りはできないからね。どれだけ漕いでも全く恐怖を感じることもなく、スピードとコーナリングの両方を存分に味はへる。鈴鹿のコースが逆走なのはここが楽しいからで、ホームストレートの安全上の理由などは建前なんぢやないかと疑つてしまふくらゐだ。F1を観てゐても、「Forza」でいくら走つてみても、この楽しさだけは味はへない。
S字からの勢ひで第二コーナーまでは気持ち良くクリアできるが、第二コーナーから第一コーナーまでの僅かに下つて登る部分で挫折が始まる。第一コーナーの出口から入口に向けてガクンとスピードが落ちて、ここからホームストレートの数百メートルを延々登らなくてはならないのだ。フロントのアウターなんてすぐに使ひ切つて、インナーに変へてリアのギアを一段また一段と下げなければならぬ屈辱。車のレースで華麗に駆抜けるあのイメージとは掛離れた、この世の地獄がホームストレートには詰つてゐる。自転車で走る鈴鹿は俺の知識にあるものとはまるで違ふ姿だつた。この経験ができただけで参加した甲斐もあつたといふものだ。

走行ログの一部、スタート後四時間辺りの四周分。緑が遅く、赤が速い区間。一目瞭然.第一コーナーからホームストレートを経て西ストレートまでの、車レースなら高速セクションとされる区間が緑色で遅く、スプーンからへアピン、デグナー、S字、第二コーナーまでのテクニカルセクションとされる区間が速い。左下のグラフのグレーの線で示される標高の、一番高い点がスプーンカーブで一番低い点が第二コーナー入口付近である。最低点から最高点までに掛つてゐる時間より、最高点から最低点に下りるまでの時間の方が明らかに短い。それは当り前といへば当り前だが、走つてゐる距離は下りの方が遥かに長いのだ。繰返しになるが、自転車のコースが逆走で尽く尽く良かつた。これが順走だつたなら、逆バンクからダンロップへの激坂がまづまともに登れないだらうしへアピンをインナーローでゼエゼエ言ひながら登るのを想像するだけで地獄だ。そして高速セクションは一瞬で終つてしまふ。ラップタイムも全く違つてこよう。
そのラップタイムについて、自分の記録で一番速いのはスタート直後に出した10.13.978といふタイムだつた。その後は速くて十一分台、平均十ニ分台、バテたら十三から十四分台といふ具合。一往参加したチームの中では速い方だつたが、それあ四箇月もローラーを回してたのだからさうでなくてはね。チームの周回数は三十四周で、その内の十五周を自分が担当した。三人チームだつたが一番多く走つてしまつた。距離にして凡そ九十キロメートル、八時間の内の三時間を走つたことになる。
終つた後は体力の消耗著しく、一日経つてもまだ呼吸が苦しい。気管肢から肺にかけて相当な疲れが残つてしまつた様だ。筋肉痛は特にないが、呼吸が整ふまでは休養することにしたい。話がうまくまとまらないが、ともあれ楽しい経験だつたので機会があつたらまた走りたいものだ。