大和但馬屋日記

はてなダイアリーからの移行中

それあ現実にパリ砲なんてものもありましたが

疾走! 千マイル急行 (下)(小川一水, ソノラマ文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

疾走!千マイル急行〈下〉 (ソノラマ文庫)

疾走!千マイル急行〈下〉 (ソノラマ文庫)

上巻で物足りなく感じた部分をすべて払拭し、結末まで一気に駆け抜けた。お見事。テオは主役たらんと自分の足で立上り、周囲の大人がそれを支へていく。それでいい。
存分に楽しんだけれども、まあ何だ、鉄道で戦闘を行ふといふのが如何に有得ないことかもよく分つた。宇宙空間で艦隊戦を行ふのと荒唐無稽さで争つてみればなかなか甲乙付け難いのではないかと思ふ。片や空間が一次元の軌道上に限定されすぎるし、もう一方は空間が全方位に広がる割に「天体(宇宙戦艦のことだ)」の運動はやはり重力の制約を受けた限定的な軌道に縛られるはずで、大海原を自由に航行するやうにはとてもいかない。もちろん、だからこそ想像の仕様によつていくらでも面白くできるわけだが。その点で小川一水はよくやつた。
あとがきについて。「そんなに気楽に電車に乗るなよ! 」は、成程これがアイチ圏*1の人の感覚なのだらうな、と思つた。首都圏と関西圏ではまたそれぞれに感覚が違ふし、地方に行くほどその意識の格差は拡がるばかりだらう。京阪間の衛星都市出身の自分にとつては、鉄道とは私鉄VS国鉄の激しくも華々しい激戦のフィールドといふ感覚が強い*2。子供心にも理解できるほど目に見えて向上していく過剰なまでのサービス合戦、それ故に贔屓の電車に乗つて感じた奇妙な優越感やライバル線に乗つて感じた微妙な羨ましさは、この小説アルバートが抱いたものとたぶん同質のものだつたのだらう。結局そのサービス合戦に在阪各社は疲弊しきつてしまひ、悲劇的な象徴として例の事故が起きたことを、オレは忘れないやうにしようと思ふ。でもそれは、オレ達利用客が求めた利便性の結果なのだよ。作中でドラグストン機関が求めたものと、少しも変らない。

はい、こちら国立天文台―星空の電話相談室(長沢工, 新潮文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

はい、こちら国立天文台―星空の電話相談室 (新潮文庫)

はい、こちら国立天文台―星空の電話相談室 (新潮文庫)

なんだか小川一水小説みたいなタイトルだな。まあ、「現場モノ」の雰囲気を出すには丁度いいのだらう。
国立天文台広報普及室に勤務してゐた著者のエッセイ。面白いことは面白いのだが、読み進めるうちに若干もにょもにょしたものを感じた。あれだ、昔サポセン系サイトを読んだ時に感じたやつ。ああしたものに何の屈託も感じない人が読めば文句なしに面白いのかもしれないが、生憎オレはさうではなかつた。
オレが期待したのはもつと天文台の研究とか運営そのものに寄つた内容であつて、しかしこの本の主題はあくまで電話を通じた相談者とのやり取りであり、そのやり取りの大半は言葉は悪いがしやうもないものなのだつた。なんだか天文学に興味を持つより先に門前払ひを喰つたやうで、なんともやりきれない読後感がある。
ドキュメンタリではなくエッセイなのだからそんなものといへばさうなのかもしれない。でもやはり、過剰なロマンチシズムに満ちた内容である必要はないにしても、「なんか知らんが凄いことをやつてるぞ」といふ期待感くらゐは持たせてほしいぢやないか。的外れかつ高望みなのかな。

*1:「YATATA WARS」て分るかな?

*2:この気分を見事に描き出したのが同人漫画の「電車でD」だ

「じゅうき」と読めばよいといふものでもないが

銃姫 (5)(高殿円,MF文庫J) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

本編から少し寄り道した中短篇集。酸鼻を極めた前巻から一息ついた後日談が二篇に、少し時間を遡つたセドリックとアンの物語。後日談の方は単純な息抜きとして読める。レース織には笑つた。最初はただのウザキャラだつたティモシーの成長ぶりもよい。
それにしても、最後の話はひでえよ。よくあるパターンだけどさ、つか最初からみえみえだけどさ。
あと、現代ものならともかくかういふ雰囲気の話で「真逆」とか地の文で使はれると萎える。

彼女はミサイル2(須堂項, MF文庫J) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

新キャラ登場。んー、今ひとつ。
物語の根幹を為すネットアイドルのシステムが、その発想自体に今更感が拭へないのと、特にシステムを生かした筋立てにもなつてゐないのとでどうも乗り切れない。もう少し児童向けマンガのエッセンスを採り入れた方が良いのではないか。
続きに期待する理由もないのでこのシリーズはもう追はない。

家族とかゲームとかいろいろありますが

神様ゲーム カミハダレニイノルベキ(宮崎柊羽,角川スニーカー文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

神様ゲーム カミハダレニイノルベキ (角川スニーカー文庫)

神様ゲーム カミハダレニイノルベキ (角川スニーカー文庫)

この手の「神様コメディ」を読むたびに一体その「神様」てのはなんやねんといふ疑念が付きまとふ。
この作品の場合、「創造主的な神様」と「地祇的な神様」の二種類が登場するが、そのことにあまり意味があるやうには思へなかつた。作品に奇妙な二重構造がある割に、それが上手く働いてゐなくて単に流れをややこしくしただけのやうな。尚、表題の「神様ゲーム」を仕掛けたのは前者の「神」で、表紙イラストに描かれてゐるのは後者の「祇」の方。妙にえちい絵だが、内容とはほとんど関係がない。
神様云々はさておいて、個々のエピソードは「自分探し」系。それぞれがそれぞれに自分探しをしてゐて、それぞれ勝手に癒されておしまひ。最後は主人公も「神様」も癒されて万万歳。「ゲーム」が解明かされる過程を楽しみに読めるものではなかつた。そこが残念。
キャラ的は羽黒が鈴木真仁的に良かつたのだけど如何にも取つて付けた様な位置付けでしかなく、あとがきにある「当初居なかつたキャラ」は絶対にこいつだと思つた。設定といふか、背負つてるものとキャラ造形が全然釣合つてない。でもそこがいい。といふか、全般的にキャラの描き方が上手いのだな。上手いといふか、ヘタウマ?

くるくるリアル(羽田奈緒子,MF文庫J) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

くるくるリアル (MF文庫J)

くるくるリアル (MF文庫J)

同じ作者のデビュー作「世界最大のこびと」(感想)の同工異曲。異世界から来た少女が何らかの理由で元の世界での居場所を失ひ、主人公の家に押し掛け、散々騒動を起した末に元の世界に帰るといふ基本的な構造もさうだし、主人公の身近にゐる人物が実は脱いだら凄かつた(違)といつた辺りも含め、全く同じ話と言つていい。
そして、こびとのパウエルなら許されてゐた騒動が、今作のフィーナでは今ひとつ許す気になれない。物語の発端から解決に至るまでのキャラクター達の行動の動機づけが甘く、最後まで読んでも納得できなかつた。どこかで見たやうなキャラばかりだし。
主人公の住む世界(所謂「我々の世界」)は異世界の住人によつて作られたものであるといふ粗筋を見たときは「奥さまは魔法少女」と設定が被つてゐると思つたが、読んでみると全然そんなことはなかつた。といふか、その前提について作者自身あまり興味も思ひ入れもなかつた様で、読者の世界認識を揺るがせるところまで行つてゐない。軸足を常識の範囲内に置きすぎてゐるのではないか。
デビュー作が良かつただけに、どうも後が続かないのが惜しい。

「ハルヒ」アニメ化

書店に行くと「ハルヒ」の積んである棚に「アニメ化企画進行中」と大書したポップが立つてゐた。正直、観たいとも思はないしアニメとして成功する訣がないと思つてゐるのだが、どうだらう。
さう思ふ第一の理由は、「ハルヒ」があくまで「俺」こと「キョン」の一人称視点で語られる物語であり、それ故に成立してゐる物語空間だからだ。第二の理由は、実は極めて理屈つぽい(理論的といふよりは屁理屈に近いが)SFであり、その面白みを視覚的には表現し難いからだ。そこに注意して丹念に作れば名作が生まれる可能性はあるが、たぶん無理だらう。コミックス版ではどうなのか、読んだことがないので分らないけれどあまりいい評判は聞かないな。漫画にせよアニメにせよ(と一緒くたにするのも危険だが)、キャラだけ借りて全く別モノにしないと作品として成立しないだらう。
考へてみるとオレはラノベが原作のアニメをいくつか観てゐるし、アニメ化されたライトノベルもいくつか読んでゐる(はず)だけど、原作とアニメの両方を観たり読んだりした作品はそれほど多くない。たぶん、さうしない方が良いのだと思ふ。
例へば「フルメタル・パニック」。実は「〜ふもっふ」しか観てないけど、アニメとして観た場合に「ふもっふ」のコンテ・演出は相当なレベルに達してゐると思ふ。ではこのノリを小説で読んだら面白いのかしらと思つて立読みをしたことはあるが、アニメならギャグで済む武器関係の薀蓄が文章で読むとウザい気がしたので、結局読むのをやめた。似た例として「スクラップドプリンセス」もあるが、これは以前に触れた通りなので省略。これらはアニメ版を面白いと思つた例だが、逆に「キノの旅」や「ぺとぺとさん」等のやうに、アニメを観たけどどうでもよくて、ついでに原作への興味をも失つた例もある。
原作を読んでゐてアニメ化された方は今はあまり多くないけど、例へば分り易いところで「イリヤの空」がある。実は全くアニメを観てゐない訣ではなく、友人宅でイリヤが操るブラックマンタが宙を舞ふシーンだけ観せてもらつた。友人はブラックマンタのデザインと、その宙を舞ふ挙動(の酷さ)を見せたかつたやうだが、そんなことよりもオレが気になつたのはそのシーンのコンテとレイアウトがどうしやうもなく退屈なことだつた。そこまでに至るストーリーは頭に入つてゐるし、そのシーンでの浅羽の感情の昂ぶりが如何ほどのものであつたかも我が事の様に覚えてゐる。それはまさしく秋山瑞人の文章芸によるものであり、アニメ化するならそれに匹敵するやうなコンテ芸をみせてくれなければ嘘だらう。キャラのイメージが云々とかそんなのは二の次三の次だ。映像としての面白さが文章から想起される脳内映像に負けてゐるのだからどうしやうもない。
ここまでいふと「ぢやあお前が作れ」と言はれかねないけれども、嫌なこつた。こんな凄い脳内映像をそう易々と他人に見せてたまるものかと負惜しみを言つて逃げておく。たぶん、オレが面白いと思つたアニメ作品でも原作ファンは似た様なことを思つてゐるに違ひない。
まあ、アニメ化等は業界が儲かるための仕組みとして避けられないのだから、観たくなければ観ない努力をするか、あるいは観たあとにクダ巻いてゐればそれでよいのだ。クダクダ。

大山鳴動編

涼宮ハルヒの陰謀(谷川流,角川スニーカー文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

涼宮ハルヒの陰謀 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの陰謀 (角川スニーカー文庫)

久しぶりの長編は、本の厚さにおいても今までで一番となつた。
一気に読み終へて満足。ハルヒ長編に限る、と思つたと同時に今回は少し難易度の高い一冊だな、とも思つた。別に内容が難解な訣ではない。さうではなくて、なんといふか、読者に「積極的にハルヒシリーズを楽しむスキル」みたいなものを要求されてゐるやうな、そんな感じだつた*1。もちろんそんなスキルは既刊シリーズをすべて読んでゐれば普通に身につくのだから特段意識する必要はないのだが。
この様に思つた理由はいくつかあつて、例へばプロローグで急ぎ足に片付けられた「消失」以来の伏線を回収するエピソードもさうだし、本編の長さの割には話の進みが遅い(といふか、あらかじめ何をするかが読者にも知らされてゐるために遅く感じる)あたりとか、実際大したことが起つたわけでもない(物語のイベント性としては二巻並にどうでもいい)とか、鶴屋さんの振舞ひとか、まあいろいろと引掛る点がある訣だ。ある訣だけれど、話者である主人公キョンがこの手の一人称ライトノベルとしては奇跡的なほどに読者であるオレと共感し易い(といふか嫌悪感を抱きにくい)語り口で描かれてゐるために、キョンと同様に開き直りの混じつた好感をもつて読み進めることができてしまふ。どこまで普遍的なことかは分らないが、オレが「巧いな」と思ふのは特にその辺のことだ。個々のキャラ萌えとかは比較的どうでもいい。
どうでもいいとか言ひながらキャラの話をすると、「消失」以降長門有希にばかりスポットが当つてゐたので今回は朝比奈みくるにしてみました、といふことになるのだらうか。しかしさうだとしても、あまり好感度の上がる扱ひではなかつたやうな気がする、といふか大人バージョンの方がそれを邪魔してゐるのではないかと予想。といふか、とことんハルヒがワキだよな。作者ですら扱ひに困つてるのか、それともキョン視点で扱ひきれないから必然的にさう見えるのか。作者の巧さから考へれば後者だらうが。
ゆくゆくは大きなクライマックスが待つてゐるぞといふ予告編でもあつたので、それが読めるのを楽しみにしたい。あまり短編集ばかり出されても困るし。
表紙については、つまりキャラが一巡したので二巡目はアカンベーにしてみました、といふことだと解釈。てことは次の表紙は長門か。想像できん‥‥
あと、「陰謀」のオチはなんとなく想像できてしまつた。夏に発行されたからまだある程度隠蔽できたのだらうが、作中季節とシンクロしてたらバレバレだつただらうな。

*1:分りにくい譬へをすると、「THE地球防衛軍2」の高難易度ステージを楽しむ素養みたいなもの

新たな萌え概念の提唱(嘘)

不思議使い (葛西伸哉,MF文庫J) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

面白かつた。押へるべき点を丁寧に押へてゐるので読んでゐて淀みがない。トイレの花子さんを三人娘にしてしまつたところが際立つオリジナリティか。ただ、その中の一人の菫子だけがあまりキャラが立つてゐなくて残念。他の二人は文句なしなだけに惜しい。
先日、友人と電話で駄弁つてゐる時に「君はホンマに三人娘が好きやなあ」と指摘されて初めてオレ自身の嗜好に気付かされたことがあるが、またその類例が出来たやうだ*1
あと、クライマックスでの主人公の啖呵もいいね。

*1:何の話をしてゐてそんな指摘をされたかは恥かしいので秘密だ

ネコミミどうも

裏山の宇宙船(笹本祐一,ソノラマノベルス) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

裏山の宇宙船 (ソノラマノベルス)

裏山の宇宙船 (ソノラマノベルス)

SFといふより、やはりライトノベルだよな。これの元になつた文庫本の方は未読。
前半はかなり退屈。何故さう感じるかと考へてみるに、単に文章が拙いだけなのではないかと思つた。今勝手に「中トロ会話文」なんて言葉を思ひついたけれども、要するに「うる星やつら」の会話そのままの、しなくていいボケを延々と続けた挙句に「××だっちゅーとろーが!!」といふツッコミで締めるあのノリである。これが詰らなくて仕方なかつた。主人公の名前が「文(ふみ)」だし、キレて机を持上げたりするし、まあ世代的に「うる星」が底本になるのはある程度仕方ないのかもしれないが、十年前に書かれた本としてもセンスが古いし、まして今読むとなると相当に辛い。さらに、その会話文がプロンプトなしに延々と鈎括弧だけで続けられるから、場面に三人以上の人物が居る場合に一体誰が喋つてゐるのかが分らなくなり、これが読み辛さに輪を掛けてゐる。これは地の文で適当に説明を補つて然るべきだらう。そもそも会話として無駄なボケが多すぎるからかういふことになる。
そんな訣で一向に話の進まない前半を何とか読み進めて後半に入り、畳み掛けるやうに様々な要素が明かになつていくところから話は俄然面白くなつてきた。結末まで文句なし。気になるあれやこれやの描写も、少し物足りないくらゐが丁度いいのだ。同じ調子で前半をシェイプアップして文庫本一冊くらゐのボリュームに収めるくらゐが丁度良かつたのではなからうか。
挿絵は、やはりキャーティアだよなあ。猫型宇宙人の出てくる話の絵を今この時期に放電映像に依頼するといふのはどうなんだらう。まあそれはともかく、なんかキャラクターの絵ばかりで風景描写がほとんどなかつたのが残念ですよ。

あそびにいくヨ! 7 (神野オキナ,MF文庫J) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

放電映像による今この時期の猫型宇宙人キャーティアの本、最新刊。裏山に落ちた方が再び宇宙を飛ぶのにあれほど苦労してゐるといふのに、こちらの方は相変らず能天気そのものでよろしい。
メインのおかずはアシストロイド艦隊のネタですか。アオシマとかウォーターラインとか、やはり受けた。

ホーンテッド! 4 (平坂読,MF文庫J) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

ああ、最後まで酷い話だつた。どこまでが作者の狙ひ通りかは分らないけれど。
興味は表紙を開いて最初に目にする扉絵の描写にのみあつて、メインのミステリ紛ひも過去話もほとんどどうでも良く、ただラストだけを楽しみにしてゐたのだが、結局期待外れだつた。
といふわけで本巻の一番のクライマックスは扉絵。あと抹白さん。以上。

夏休み読書感想文

捻りなし。お捻り無用。

邪馬台国はどこですか?(鯨統一郎,創元推理文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)

邪馬台国はどこですか? (創元推理文庫)

歴史的に著名な事件を、一般的に知られてゐる文献資料等を材料にしてミステリ的手法で解明かし、通説とは全く異なつた結論に着地させてみせる小説
ミステリの論理展開による面白さを味はふには格好の本なのだらう。論理展開のための「お膳立て」が先に整へられ、その一要素として「人が殺されてゐる」ことが大前提となつてゐるステロタイプなミステリの構造に反吐が出るオレでも、題材的には楽しく読めた。
しかし、論理的な読解き部分がどれだけ楽しくても、それを語る手法を、人物配置を、語り口を好きになれない。題材として取上げられる歴史的な人物や事件があまりマニアックすぎては読者がついてこられないから、できるかぎり俗流解釈に則つた一般論を提示してそれを引繰り返すといふ手法になるのは致し方ないところだらうが、その「俗流」の部分があまりに俗つぽすぎる。そのせゐかどうか、登場人物も悉くスノッブな思考と言動に終始してゐて、まづこれを読むのに相当な我慢が必要だつた。
歴史の俗流解釈についてもそのいくつかは「今時それはないだらう」としかいへないもので、論理展開ではなく題材選びそのものに無理矢理さを感じることがあつた。
この作品を「歴史トンデモ本だ」といつて批難するのは当らないと思ふ、オレもそんなつもりは毛頭ない。あくまでこの作品の醍醐味は「限られた文献資料を元にしたアクロバティックな論理的読解き」にあり、それがミステリの真骨頂でもあると理解した上で、そこは大いに楽しんだ。しかしミステリであるが故に「お約束」的に肉付けされたその他諸々の部分が気に入らない。だから、オレはやはりミステリを読まない。
同様の論理展開で、フィクションではなく歴史研究書として優れた考察をした本に例へば遠山美都男の「大化改新―六四五年六月の宮廷革命 (中公新書)」などがある。誰も読まないだらうけど、いい機会なので挙げておく。

新・世界の七不思議(鯨統一郎,創元推理文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

新・世界の七不思議 (創元推理文庫)

新・世界の七不思議 (創元推理文庫)

以下同文。
題材がそれほど身近でない分、それから作者の語り口がよりミステリ的にこなれてしまつた分、「面白い」と感じる部分が相対的に減つてしまつた。つか、オチが弱い話ばかりだ。もういい。

老ヴォールの惑星(小川一水,ハヤカワ文庫JA) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

ハヤカワはかういふ作品をJAではなくてSFに分類したらいいのに、なぜ日本人作家を一緒くたに扱ふのだらう。書店だか取次だかの都合か? しらんけど。なんて要らぬことを考へてしまふくらゐ、素晴しいSFだつた。正直、小川一水がかういふものを書けるとは知らず、誰にとはなく恥かしく思つた。
SF作品がその魅力を存分に発揮するためには短編であるべきではないかと日頃薄々感じてゐる。もちろんそれは極論であつて長編にも面白い作品は山ほどあると知つてゐるつもりだが、でもやはりさう思ふ。著名な短編SFが長編化された例はいくつもあるが、オレが読んだいくつかに限つていへばやはり短編の方が面白かつた。あるいは、長編化された方が好きであつても、その良さは短編時代の部分の面白さとは全く別のところにあつたりする*1
これまでメジャーに発表された小川作品とは毛色が全く異るが、それ故にこれを読んでますます小川一水から目が離せなくなつた。先が楽しみだ。

アース・ガード-ローカル惑星防衛記(小川一水,ソノラマ文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

‥‥ごめん。コメントできん。ラノベとして普通に駄目。
まあ、ここからいくつもの階段を上つたからこそ今があるのだ。それはいいことだ。うん。

竜とイルカたち ―パーンの竜騎士9(アン・マキャフリイ/小尾芙佐訳,ハヤカワ文庫SF) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

SF作品がその魅力を存分に発揮するためには短編であるべきだとは思ふが、大長編SFだつて面白いのである。例へば「パーンの竜騎士」がさうであるやうに。
前巻が出てから随分待たされたといふか、正直待つてゐたことすら忘れかねないくらゐだ。糸降り期が一回抜けたあとの城砦民達の気持ちがよく分るぞ。などと大長編ならではの語彙をつい駆使したくなるやうな作品は、オレにとつてはこれだけかもしれない。ガンダム語はまあ別として。特に初期三部作を繰返し読み、「竜の夜明け」に打震へた身としては、何年待たされても固有名詞に何の引掛りも感じることなく入り込めた。
前巻でひとつのクライマックスを迎へた後、やつと出てきた新刊のテーマがイルカときては「おいおい大丈夫か」とつい思つてしまつたが、まあ何とか大丈夫だつた。イルカの持つ超能力がパーン入植前からの遺伝子改造の結果といふことで、その設定がなかつたらちと受容れられなかつたと思ふ。ニューエイジ小説にならないかと心配だつたのだ。
それにしても相変らず悪人が描けてないなあ、とは思ふ。トリク太守が間抜けに見えるのは彼以外の全ての人間が底抜けのお人好しだからなのではないかと。ある意味でもの凄く息苦しい社会なのではないか、惑星パーンといふ土地は。そこがどんなに過酷な環境と設定されてゐても結局は克服してしまふのだし(それが作品のテーマなのだから)、パーンは今やアメリカ的理想郷に向けて一直線に突進んでゐる。
それを受容れて結末まで見届けるのもひとつの務めだから一刻も早い新刊の訳出を待ちたいところだが、一方でオレが好きなのは一巻二巻あたりの少し陰鬱な雰囲気であつたり、もつと遡つた「竜の貴婦人」のモレタの時代の雰囲気であつたりする。このやうな「中世的な風景の中に身を置きたい」といふ願望に忠実であらうとすればオンラインRPGなどにも少しは興味が出てくるのかもしれないが、まださういふ気はしないな。
‥‥もし「パーンの竜騎士オンライン」なんてゲームがあつたらどうしようか*2。既にありさうだな。いや、そんなのよりどちらかといふと火蜥蜴を飼ひたいのだけれど。竜よりも火蜥蜴。
そんなこんなで、もはやSF的にどうとかではなく、作品世界に耽溺するための環境そのものであり、さういふ意味では「吉永さん家」とかを読むのと動機は何一つ変らない。
つか、メノリ(それかい)。

*1:「エンダーのゲーム」を脳裏に浮べながら書いてゐる

*2:因みに「ドラクエ」が海外で「DRAGON WARRIOR」となつたのは「パーンの竜騎士」のTRPGだかボードゲームだかがシリーズ第二巻「竜の探索」の名を関してゐるからだと昔どこかで読んだ気がする

仙年堂分が切れた

由々しい事態だ。一水分を補給したから、休みはこれで凌がう。

吉永さん家のガーゴイル(7)(田口仙年堂,ファミ通文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

七巻目は久しぶりに百色と梨々の話。少しシリアスさが増した感じかな。とにかく必死な梨々がいい。ただ、小学五年生の行動と考へるとあまりにも無茶が過ぎる気はする。まあ、そこは深くツッコむところではないにしても。
まあ、好きなシリーズだけど、そろそろ他のを読みたいなと思つた。

コッペとBB団 その1(田口仙年堂,ファミ通文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

コッペとBB団 その1 (ファミ通文庫)

コッペとBB団 その1 (ファミ通文庫)

他のを読みたいなと思つたら、たまたま新シリーズが始まつたのでそそくさと読んだ。
うん、素晴らしい。特撮ヒーローものの悪役をパロディ的に扱ふテーマの作品は時々出てくるけれど、所詮はパロディといふ感じであまり楽しめるものではなかつた。この作品も際どいところで、読み始めた時はかなり不安だつたのだけど。
いや、実に素晴らしい。コッペの能力をわざとらしく隠しておいて、クライマックスで嫌ボーンといふ展開になんかなつてたら読むのをやめるところだつたけど、そんな陳腐な話ではなくて。
新鮮味も手伝つて今は「吉永さん家」より続きが楽しみになつてゐる。もちろん「吉永さん家」の続きが読みたくないわけではないけれど、舞台を変へても面白い作品がいくらでも書ける力量のある人には、ひとつの世界に固執しすぎないでゐてくれた方が嬉しいかな、とも思ふ。

一日一冊ペース

楽に読めるもんばかり読んでるなあ。

憐 Ren 錆びゆくココロと月色のナミダ(水口敬文, 角川スニーカー文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

表紙のコーヒー牛乳を吸ふ憐ちやんが可愛いと思ひました。まる。
前巻を読んだ後、これを紹介してくれた友人Kと電話で世間話をしてゐて、その話になつた。続きを読んだか? とKに問はれて「まだ。読みたいとは思つてるけどなー」と答へた。
「でも、あの話はもう終つてるから、続け様がなかつたと思はんか?」とK。オレはg:book:id:yms-zun:20050725:read050725isbn4044708010に書いた通り、全然話が終つてないと思つたのでその通り伝へてみた(Kはあまりネットを見ないといふか、オレと見てる範囲が全然違ふ)。
「いやだつて、あれは『ボーイミーツガール』だと思つてるからさー」「確かにあとがきにもそんなこと書いてあつたけど、『ボーイミーツガール』てのは話の発端であつて結末とちやうやん」云々。ライトノベルにどこまでSF的な読みを求めるかどうかの違ひなのだらうと指摘されたが、別にオレもSF的な整合性は全くどうでもよくて(タイムパラドックスとかは度外視してよいと判断)、単純に「憐が未来から現代にやつてきて、そこで幸せになりました」で終つたら「でもその先の未来は結局どうなの?未来そのものを変へないと気がすまんのとちやうか?」と思つただけなのだが。
などと長い前置きをして、さて本巻を読んだ。確かに、オレが望んだ方向の話に進まうとしてはゐる。が、なんだらうこの消化不良な感じは。何より「時の意思」の現れ方に驚いた。少しスケールが小さすぎないか? 憐自身の行動もさうだし、眞依の行動の動機や、前巻以来の未来世界の成立ちにしても同じで、やはり「それは無理がありすぎ」とツッコミを入れるしかない。そんな風に物語の屋台骨に不安があるからどうも引掛りを感じながら読んでしまふけれど、学園ものとしてはそれなりに面白い。ただ、ひとつの巻としてもう少し話をきちんと纏めて欲しい。クライマックスのシーン展開が(自ら認めてゐるやうに)前巻と全く同じといふのもいただけない。といふか。
表紙のコーヒー牛乳を吸ふ憐ちやんが可愛いと思ひました。まる。

憐 Ren -routine-(水口敬文, 角川スニーカー文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

憐 Ren ~routine~ (角川スニーカー文庫)

憐 Ren ~routine~ (角川スニーカー文庫)

シリーズ三巻目。本筋から少し離れた短編集
本筋から離れてゐる分、学園ものとして読めば楽しく読めた。話をきちんと纏めずに宙ぶらりんで終らせるのも、それはそれで味なのかもしれない。本筋にきちんとけりをつけてくれればそれでいい。

吉永さん家のガーゴイル(5)(田口仙年堂,ファミ通文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

お祭り騒ぎ。相変らずの面白さだが、最後に桜を焼かうとするマッカチンの行動だけは「なんでそこでさうなるの?」と首を傾げた。自暴自棄とはいへ、同情のしやうもなくなるところだつた。縦列駐車には笑つた。

吉永さん家のガーゴイル(6)(田口仙年堂,ファミ通文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

これまた面白いけれど、「吉永さん家」である意味は? と考へてしまつた。なんとなく、いいアイデアなのに勿体無い使ひ方をしてしまつたのではないかと思ふ。いきなり「おー、持ってけ持ってけ」と登場する双葉はカットイラスト込みで可愛いけれど(絵の絡め方が本当に上手いなこのシリーズは)、物語の中では異分子すぎてほとんど意味がないし、ガーゴイルにしてもそれは同じ。
まあ、この作者の引出しならいくらでもこのレベルの話は出てくると思ふので、「勿体無い」などとは要らぬ心配なのだらう。ところで、表紙の絵の意味が未だによく分らない。

吉永さん家ヲチ

吉永さん家のガーゴイル(2)(田口仙年堂,ファミ通文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

一巻を読んで以降、続きを読まうと思つてから随分経つてしまつた。
その一巻は短編集の体だつたが、この巻は一冊分の分量の長編。一巻目の最終話を長くした様な展開。新キャラが出てきてガーゴイルと対決して負けてそのまま町に居つくといふ、週刊少年サンデーのコメディ漫画のやうなパターンか。
イラストと相俟つて緩い雰囲気を維持しつつ、ところどころで締めてくれる。ぬるま湯最高。

吉永さん家のガーゴイル(3)(田口仙年堂,ファミ通文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

ともすれば粗暴さだけが目立つ双葉の成長編。奇矯さを増していく敵役の描写が少し気に障るが、その辺も含めて少年漫画のお約束ではある。
ライトノベルの中でも文章とイラストの組合せ方がかなり上手いな、このシリーズは。文章の読み易さ等々含めて、読みながら想像力を全く動員しなくて済むといふのは、好き嫌ひは別にしてライトノベルのひとつのあるべき形だらう。
こいつはただのぬるま湯ぢやねえぜ、極上のぬるま湯だ。

吉永さん家のガーゴイル(4)(田口仙年堂,ファミ通文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

表紙を見て「また新キャラか」と思つたら。いや、この設定はかなりツボなんですが。
口絵漫画を見て「こんどは短編集か」と思つたら。本編全然関係ないやん!!
それはともかく、本編。舞台を変へて、まあ、所謂ひとつの過去話。SF的にタイムパラドックスをどうするか、といふことを一切考慮しなくて済む舞台の作り方が見事。「過去の終つた話」としての恋愛劇も、古典的ながらそこそこ読み応へがあつた。昔のちやんとした映画を一本観たやうな味はひ。あまり奇矯なキャラが出ないのもいい。
明日残り三冊を買つてこよう。

風呂焚きの友

風呂釜の調子が悪くて焚く間は付ききりで見ておかなくてはならないので、晴れの日でも読書が進む今日この頃。ある意味焚書官。

徳川慶喜家にようこそ-わが家に伝わる愛すべき「最後の将軍」の横顔(徳川慶朝, 文春文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

十五代将軍徳川慶喜公の曾孫にあたる著者による随筆。将軍直系の家柄ながらもごく普通の社会人として世を過ごす筆者が極めて小市民的な感覚で綴る文章から、目立つて得られる知見はない。知見を得なければ読む意味がないといふ訣でもないけれど、あまりに普通すぎた。著者自身がさういふスタンスで書いてゐるので、特に批難の意味を込めてゐるつもりはない。
ただ、写真を趣味にしてゐたといふ慶喜が手づから撮つた写真が何枚か掲載されてゐて、これには大変興味を惹かれた。いい写真だ。できれば他の写真もぜひ見てみたいので、同じ著者が纏めた「将軍が撮った明治―徳川慶喜公撮影写真集」を読む機会をいつか作りたいと思つた。

星屑エンプレス ぼくがペットになった理由(小林めぐみ, 富士見ミステリー文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

「殺人事件が起きた事」以外にどのへんがミステリなのか分らんが、オレはミステリに思ひ入れは全くないので問題はない。
まあ、実に手堅い。いくらでもシリーズ化できる構成だし、これつきりでも物足りなさは感じないし。読んだ感想として出てくる言葉が「手堅いなあ」といふのもどうかと思ふが。あだち充の漫画を読んだ時と似た味はひ。

疾走! 千マイル急行 (上)(小川一水, ソノラマ文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

疾走!千マイル急行〈上〉 (ソノラマ文庫)

疾走!千マイル急行〈上〉 (ソノラマ文庫)

毎度御馴染み小川一水の職業冒険もの。ただ、いつもの同系の作品と違つて主人公が職業人ではなく、乗客として乗込んだ少年テオ。彼にも一往事態の当事者としての役割は与へられてゐるが、この上巻に限つていへば物語を動かす役にはほとんど立つてゐない。一水作品としては珍しいパターンかもしれない。といふか、どちらかといへば、一昔前なら同じ少年でもテオでなくキッツが主人公になりさうなものだ。冒頭のシーンはいくらなんでも星野鉄郎すぎるだらうとは思つたが。
鉄道絡みのギミック描写は申し分ない。千マイル急行(TME)の相当な999つぷり(装甲車付き!!)も魅力的だし、フリーゲージトレインや船での渡航、ラックレールによる登坂など、一通りのツボは押へてくれる。欲を言へばタブレットやスタフによる閉塞区間通過の描写もどこかにあればよかつたが、瑣末すぎるのでカットされたのだらうな。軌間(ゲージ)の問題をフリーゲージトレインといふ大技でクリアしながらも車輌限界の問題には一言も触れないのはたぶん作劇上の都合といふものだらう。本当ならゲージと同等かそれ以上に深刻な問題となるだけに、触れない方が得策なのだ。
人物の方に立ち戻ると、主人公達四人の少年達と列車係員や軍人などの職業人はよいとして、少年達以外の大人の乗客について全く書割り程度の描写しかされてゐないことが少し気になつた。ただ一人名前を与へられた大人は早々に退場してしまふし。紙幅の都合なのかソノラマ文庫といふ媒体に合せたものなのかは分らないが、少し惜しい。
ともあれ、下巻ではテオが主役を張ることを祈りたい。
余談ながら、かういふのを「スチームパンク」などと称してさういふ枠組に組入れるのはあまり面白いことではないと思つた。つか、この作品についていふならスチームパンクなどではないとオレは思ふ。

二十日ぶり

また溜め込んだ。

恐るべき旅路 ―火星探査機「のぞみ」のたどった12年―(松浦晋也, 朝日ソノラマ) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

恐るべき旅路 ―火星探査機「のぞみ」のたどった12年―

恐るべき旅路 ―火星探査機「のぞみ」のたどった12年―

火星の周回軌道投入に失敗した探査機の、プロジェクトの一部始終を追ふドキュメント。過剰に夢を語るでもなく、「税金の無駄遣ひ云々」と無駄に批判的になるでもなく、時に鋭い指摘を交へながらも淡々と記述されてゐる。そして、それ故に、読みながら涙を堪へるのに苦労した。
探査機一個打上げるのにしなくていい苦労を散々して、それでも何とか空には上げて、できる限りの力を尽して、結局目的は果たせないまま、それでも探査機は今なお地球と火星の間を天体として巡り続けてゐる。世の中があとほんの少し宇宙開発に優しければ、PLANET-Bは今頃火星、あるいは金星の周回軌道を巡つてゐたかもしれない。でも現実はたつたひとつ。火星へと向ふ途上で「のぞみ」に発生したトラブルは、起るべくして起きたのだ。その現実の重みに、泣いた。

彼女はミサイル(須堂項, MF文庫J) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

彼女はミサイル (MF文庫J)

彼女はミサイル (MF文庫J)

タイトルが譬喩ではなく文字通りの内容を表してゐることを期待して買つてみたら、全然違つた。くそう。つかそれではただの最終兵器以下略。
譬喩としてのミサイル彼女に振回される話ならば最近「ハルヒ」シリーズを続けて読んだばかりなのでお腹一杯やなあといふ感じで最初はあまり乗り切れなかつたものの、後半の唐突な展開が巧くはないがそれなりに楽しめたので、まあ良かつた。

憐 Ren 刻のナイフと空色のミライ(水口敬文, 角川スニーカー文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

友人が読んで面白いと言つてゐたので手に取つた。なるほどその友人が好みさうな内容だ。
主人公の境遇に関する基本設定があまりに強引といふか不自然で幾らなんでもそんな社会はないだらうと思ふのだが、それさへ許せば、あとは悪くなかつた。ただ全然話が終つてなくて、よく賞が取れたなとは思つた。奨励賞といふことは「続きを書け」といふことなのだらう。と思つたら既に続刊があるらしいので読んでみよう。「時の意志」とやらをグーで殴らないことには話は終るまいて。

最終エージェント・チカル(大迫純一,MF文庫J) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

最終エージェント・チカル (MF文庫J)

最終エージェント・チカル (MF文庫J)

帯を見て想像した内容通りなら楽しいなと思つて買つてみたら、全然違つた。くそう。いや、前半は期待通り「周りの人間が勝手に自分を『お前は最終エージェントだ』と言つてちよつかいを出してくるんだけど本人は何が何やら分つてない」といふ話なのだが、後半であつさり「目覚めて」しまひ、普通にシリアスな話になつてしまつた。最後まで何が何やら分らないまま走り切つてほしかつたな、と。オレがラノベに求めるのはさういふものです。

サンダーガール!(鈴木鈴,電撃文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

サンダーガール! (電撃文庫)

サンダーガール! (電撃文庫)

いかにも電撃ぽい内容といふか、タイトルからしてさうだな。電撃ぢやないけど「放課後退魔録」みたいな感じ。特に感想は出てこないけど、嫌いではない。続きが面白さうなら読む。

引越中に読んだものとか

随分と溜め込んだ。

神様家族〈2〉発育少女(桑島由一,MF文庫J) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

悪い意味でアニメやゲームのシナリオみたいだ。刹那的な前後の繋がりだけがあつて、物語全体としては何といふこともない。最後に佐間太郎に課された処罰がこの話の一番の鍵であるはずなのだが、何を失はせるかの取捨選択も巧くないと思つた。何も読後感が残らない。
続きはもういいや。

スペースシャトルの落日-失われた24年間の真実-(松浦晋也,エクスナレッジ) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

一気に読み終へた。この分野に興味を持つた状態で最近の情報をある程度仕入れてゐればそれほど耳新しいことが書かれてゐるとまでは感じられず、どちらかといふと「ふむふむ成程ね」といふ意識で読み進めがちだが、それでもやはり「翼の付いた宇宙船」といふものに対する誘惑(あるいは呪縛)は簡単にが拭ひ去り難いものだとも思つた。
スペースシャトルのオービターが着陸するあの絵面と比べると落下傘による海上への帰還はどうしても技術的に後退した様に(有体にいへば格好悪く)映つてしまふ。そのどうしようもない洗脳状態から目を醒ますためにも、この本が多くの人に読まれて欲しいものだ。

ウェブログの心理学(山下清美/川浦康至/川上善郎/三浦麻子,NTT出版) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

基礎教養として目を通しておいて損はない。控へ目な言ひ方だがこの本はそれが全てであり、そのために読む価値はある。

新宗教と巨大建築(五十嵐太郎,講談社現代新書) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

近世末期以降に勃興した日本の新宗教を題材にし、その教義を具現化したものとして建築を捉へて解説を試みる本。
なかなか面白かつた。関西出身なので幕末期の天理教金光教大本教などがそれほど遠い世界のことでもない割に、ではそれらのことをどのくらゐ知つてゐるかと改めて問はれれば、親類縁者に信者が居ないのでほとんど何も知らないことに気付かされた。精々、奈良で親類の結婚式に出たときに同じ建物で挙式のあつた別の家の新郎新婦が、天理教式に則つて黒い着物を着てゐたのを見た程度か。
本の前半を占める、その天理教の教義と建築に関する部分は読んでゐてある意味興奮した。なんと壮大な構想であり、しかもそれが着々と完成に近づきつつあるといふ。
Google マップで表示させてみた。この中心点が天理教本部で、それを四角く取り囲む様な建物が見える(参考:http://www.mapion.co.jp/c/f?uc=1&grp=all&nl=34/35/53.040&el=135/50/45.659&scl=25000&coco=34/35/53.040,135/50/45.659&icon=star,0,,,,&bid=Mlink)。いつかこれが完成すれば、完全に四角い宗教空間が出来上がるといふのだ。語彙の不足を呪ふしかないが、それにしても面白いではないか。
新興宗教がどの辺りから際物扱ひされなくなり社会的な立場を得られるやうになるものかと考へると、それは概ね教祖が死んで教団が組織的な安定を求めるやうになつた後だらう。それにはやはり数十年といふ時間が必要で、それを乗り越えた新宗教の持つ迫力のやうなものを感じた。

テロルの決算(沢木耕太郎,文春文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

昭和三十五年に起きた社会党委員長刺殺事件を題材に、実行犯山口二矢と殺された浅沼稲次郎の人生が如何に交はつたかを描くノンフィクション小説大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。
二人の人生を描く作者の筆致があまりに真直ぐで、綺麗にまとまり過ぎてゐて、さて「事実は小説より奇なり」といふが本当に奇なるものは事実なりや小説なりやと考へ込んでしまつた。
傑作だと思ふ。