捻りなし。お捻り無用。
邪馬台国はどこですか?(鯨統一郎,創元推理文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ
- 作者: 鯨統一郎
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1998/05/24
- メディア: 文庫
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ミステリの論理展開による面白さを味はふには格好の本なのだらう。論理展開のための「お膳立て」が先に整へられ、その一要素として「人が殺されてゐる」ことが大前提となつてゐるステロタイプなミステリの構造に反吐が出るオレでも、題材的には楽しく読めた。
しかし、論理的な読解き部分がどれだけ楽しくても、それを語る手法を、人物配置を、語り口を好きになれない。題材として取上げられる歴史的な人物や事件があまりマニアックすぎては読者がついてこられないから、できるかぎり俗流解釈に則つた一般論を提示してそれを引繰り返すといふ手法になるのは致し方ないところだらうが、その「俗流」の部分があまりに俗つぽすぎる。そのせゐかどうか、登場人物も悉くスノッブな思考と言動に終始してゐて、まづこれを読むのに相当な我慢が必要だつた。
歴史の俗流解釈についてもそのいくつかは「今時それはないだらう」としかいへないもので、論理展開ではなく題材選びそのものに無理矢理さを感じることがあつた。
この作品を「歴史トンデモ本だ」といつて批難するのは当らないと思ふ、オレもそんなつもりは毛頭ない。あくまでこの作品の醍醐味は「限られた文献資料を元にしたアクロバティックな論理的読解き」にあり、それがミステリの真骨頂でもあると理解した上で、そこは大いに楽しんだ。しかしミステリであるが故に「お約束」的に肉付けされたその他諸々の部分が気に入らない。だから、オレはやはりミステリを読まない。
同様の論理展開で、フィクションではなく歴史研究書として優れた考察をした本に例へば遠山美都男の「大化改新―六四五年六月の宮廷革命 (中公新書)」などがある。誰も読まないだらうけど、いい機会なので挙げておく。
新・世界の七不思議(鯨統一郎,創元推理文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ
- 作者: 鯨統一郎
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/02/24
- メディア: 文庫
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題材がそれほど身近でない分、それから作者の語り口がよりミステリ的にこなれてしまつた分、「面白い」と感じる部分が相対的に減つてしまつた。つか、オチが弱い話ばかりだ。もういい。
老ヴォールの惑星(小川一水,ハヤカワ文庫JA) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ
老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))
- 作者: 小川一水
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/08/09
- メディア: 文庫
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SF作品がその魅力を存分に発揮するためには短編であるべきではないかと日頃薄々感じてゐる。もちろんそれは極論であつて長編にも面白い作品は山ほどあると知つてゐるつもりだが、でもやはりさう思ふ。著名な短編SFが長編化された例はいくつもあるが、オレが読んだいくつかに限つていへばやはり短編の方が面白かつた。あるいは、長編化された方が好きであつても、その良さは短編時代の部分の面白さとは全く別のところにあつたりする*1。
これまでメジャーに発表された小川作品とは毛色が全く異るが、それ故にこれを読んでますます小川一水から目が離せなくなつた。先が楽しみだ。
アース・ガード-ローカル惑星防衛記(小川一水,ソノラマ文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ
- 作者: 小川一水,こいでたく
- 出版社/メーカー: 朝日ソノラマ
- 発売日: 1998/08
- メディア: 文庫
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まあ、ここからいくつもの階段を上つたからこそ今があるのだ。それはいいことだ。うん。
竜とイルカたち ―パーンの竜騎士9(アン・マキャフリイ/小尾芙佐訳,ハヤカワ文庫SF) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ
竜とイルカたち ―パーンの竜騎士 <9> (ハヤカワ文庫SF)
- 作者: アン・マキャフリイ,小尾芙佐
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/07/21
- メディア: 文庫
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前巻が出てから随分待たされたといふか、正直待つてゐたことすら忘れかねないくらゐだ。糸降り期が一回抜けたあとの城砦民達の気持ちがよく分るぞ。などと大長編ならではの語彙をつい駆使したくなるやうな作品は、オレにとつてはこれだけかもしれない。ガンダム語はまあ別として。特に初期三部作を繰返し読み、「竜の夜明け」に打震へた身としては、何年待たされても固有名詞に何の引掛りも感じることなく入り込めた。
前巻でひとつのクライマックスを迎へた後、やつと出てきた新刊のテーマがイルカときては「おいおい大丈夫か」とつい思つてしまつたが、まあ何とか大丈夫だつた。イルカの持つ超能力がパーン入植前からの遺伝子改造の結果といふことで、その設定がなかつたらちと受容れられなかつたと思ふ。ニューエイジ系小説にならないかと心配だつたのだ。
それにしても相変らず悪人が描けてないなあ、とは思ふ。トリク太守が間抜けに見えるのは彼以外の全ての人間が底抜けのお人好しだからなのではないかと。ある意味でもの凄く息苦しい社会なのではないか、惑星パーンといふ土地は。そこがどんなに過酷な環境と設定されてゐても結局は克服してしまふのだし(それが作品のテーマなのだから)、パーンは今やアメリカ的理想郷に向けて一直線に突進んでゐる。
それを受容れて結末まで見届けるのもひとつの務めだから一刻も早い新刊の訳出を待ちたいところだが、一方でオレが好きなのは一巻二巻あたりの少し陰鬱な雰囲気であつたり、もつと遡つた「竜の貴婦人」のモレタの時代の雰囲気であつたりする。このやうな「中世的な風景の中に身を置きたい」といふ願望に忠実であらうとすればオンラインRPGなどにも少しは興味が出てくるのかもしれないが、まださういふ気はしないな。
‥‥もし「パーンの竜騎士オンライン」なんてゲームがあつたらどうしようか*2。既にありさうだな。いや、そんなのよりどちらかといふと火蜥蜴を飼ひたいのだけれど。竜よりも火蜥蜴。
そんなこんなで、もはやSF的にどうとかではなく、作品世界に耽溺するための環境そのものであり、さういふ意味では「吉永さん家」とかを読むのと動機は何一つ変らない。
つか、メノリ(それかい)。