「この世界の片隅に」について、書きたいことが溢れて仕方がない。
パンフレットも手に入れて、監督のインタビュ一を讀むと廣島辯と呉辯の違ひについて触れられてゐた。「呉」といふ地名について、廣島縣内を含む全國一般的には頭にアクセントを置いて「くれ」と呼ぶ。しかし、呉に住む人達だけは、自らの暮す地を「くれ」と呼ぶのださうだ。
そこでふと氣になつて、「たまゆら〜hitotose〜」の第八話を見返してみた。ほぼろさんこと八色ちもさんが、ぽってを連れて呉を訪れる話だ。果して、ほぼろさんははつきり「くれ」と發音してゐた。ほぼろさんは設定上竹原出身である筈だが、聲を演じた松來未祐さんは呉出身なので、自然とさういふ發音になってゐる樣だった。何て優しい響きなんだらう。
「この世界の片隅に」においては、廣島から嫁いだすずさんの「呉」の發音の變化までがきちんと演出されてゐる。それが映畫のテーマに結びついてゐる。しかもそれは監督の指示ではなく、のん(能年玲奈)さんに雑談でアクセントの違ひの話をしたら、自分で演技に取入れたのだといふ。神は細部に宿るのである。
周作さんが誇らしげに呉の由來が「九嶺」であると語つて、やつと「山が大事だつたか!」と氣付いた。どうしても海と港にばかり目が行つてしまふ。あれだけ山際での暮し振りが描かれてゐるのを何度も見て尚さうなのである。うちやあほんまにボーッとしとるけえ。
今となつてはこの冩眞の手前に冩つてゐるものより奥にある山のことが氣になつて仕方ないわい。