大和但馬屋日記

はてなダイアリーからの移行中

大蚊

yms-zun2006-06-10

川に面したこの部屋に引越してそろそろ一年が経つ。水が近いので蚊に悩まされるかと初めは懸念したが、意外にもといふか、この部屋に蚊が入つてきた験しはほぼ皆無といつて良い。大きい川では孑孑も湧かんか。
その代りといふべきかどうか、うちの風呂場にはよく大蚊*1が迷ひこむ。どうもこいつが、気になるアイツなのだ。
大蚊とは珍妙な生き物だと思ふ。当字からして見たまんま、「大きい蚊」である。そのくせ、蚊ほども生き方に狡猾さが見られない。生血を吸ふ訣でもなければ俊敏に飛べる訣でもない。むしろ、飛ぶのが苦手な様ですらある。身体の大きさに見合つた頑丈さもないから、すぐ足や羽がもげる。よくこんなものが今まで生延びてゐるものだと感心する。それ故に、仮令その姿が不倶載天の敵である蚊をそのまま引延した様なものであつても、何だか憎めないのだ。もとより憎む必要などないにしても。
今日もまた一匹の大蚊が風呂場に居た。いつもの奴かどうかは知らない。虫の個体判別をする必要をワシは全く認めないから。虫はある意味、自己増殖する機械の様なものだと思つてゐる。
ともあれ、風呂場の電灯に大蚊がふらふら纏わりつくのを湯舟に浸りながら眺めてゐた。それに飽きたので上らうと思ひ、掃除がてらシャワーをぶんと振り回したら。
大蚊の奴、いつの間にか床に降りてゐて、もろに湯を浴びやがつた。全身がぐつしより濡れて、当然羽もしなしなになつて身体にべつたり貼付いて、それでも何とか飛ばうと羽の根元に力を込めてゐるのが分る。全く、仕様のない奴だ。
呆れながらもそのまま放つておいて、風呂場を乾かす為に窓を開けておいた。しばらく時間をあけてから覗いてみたら、奴さん無事に飛べたらしく、天井にぶら提がつてゐた。本当に仕様のない奴だ。

*1:ががんぼ