大和但馬屋日記

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業病

風呂の中で「とらドラ8!」を読んでゐる。出たばかりの九巻ではなく八巻なのは、当然八巻をまだ読んでなかつたからで、何故読んでゐなかつたかといふと、別に「とらドラ」に飽きたからではなくて、この半年ほどはラノベも漫画も殆ど読んでゐないに等しかつたからだ。ついでにいふとアニメを観る数も減つてゐる。八月頃など、AT-Xで再放送してゐた旧作を二、三本ばかり録画するだけだつた。所謂「オタク事」への興味が薄れたのかといふとさうではなくて、まあ言はずと知れたある一つの方面へ意識と時間と金銭のリソースの大半を振り向けてゐたから、他が手薄になつただけだ。定期的な楽しみがテレビアニメでなく「アイマスレディオ」だつたりニコニコの週マスランキングだつたりDLCのカタログに変つたり。全方位に意識を振り向けられるほど自分のキャパは大きくないし、ただでさへ優先度はゲームの方が高いから、まあこんなものだらう。

さうかうする間に、継続して購読してゐた作品からも取り残されがちになつた。ラノベでいふと「とらドラ」だけでなく「ガーゴイル」も最終巻の一冊手前、「円環少女」も最新刊、どれも購入して読み始めてはゐるものの全部途中で止つてしまつてゐる。なんだか、最後まで読み終へる力が足りてない。「ガーゴイル」なんか一風呂で読めるのに。

せめてさういふものをきちんと読み通さうとして、はじめに書いたやうに「とらドラ」八巻を読み進めてゐるのだが、これがまた変なところで引掛つてゐて中々先に進まない。つまらない訣ではなくて面白いのは面白いのだが。どうしよう、と思ひつつ本の半ばほどで風呂から上つた。

で、今朝。朝飯喰ひながらテレビを見るともなく見てゐたら、何か始まつた。「原作:竹宮ゆゆこ」「原作イラスト:ヤス」。主人公と思しき目つきの悪い少年のモノローグが始まつて、慌ててテレビを消した。今日からアニメ版の「とらドラ」がAT-Xで始まるのだつた。

風呂の中で覚えた引掛りの原因がまさにこれで、既にAT-Xでは「とらドラ」の番宣が嫌といふほど流れてゐる。で、大河が「あの声」で喋るのだ。おかげで、本を読んでゐても、台詞がすべて「あの声」で再生されてしまふ。ああ、またひとつのキャラが病に感染してしまつた。

「シャナ」の時もさうだつた。読書中、自分の脳内でシャナが「あの声」で喋るのが嫌だから、アニメを観るのは意識的に避けてゐた。それは八割くらゐ成功してゐたが、肝心の「うるさいうるさいうるさい」だけは抗ひ難く染つてしまつた。今回は、すでに手遅れらしい。

アニメ版の「とらドラ」は、友人やネットでの評判を見る限り立上りは悪くないやうだから、観たくないわけではない。といふか、観てみたい。録画くらゐはしておかう。でも、原作が終るまでは、やはり観たくないのだ。「とらドラ」の面白さはまづ何といつても竹宮の文章そのものにあるのであつて、その言語感覚を存分に楽しむためには、アニメのテンポでキャラに喋られては困るのだ、それが誰であらうと。まして、「あの声」は感染力が強すぎる。

「あの声」が嫌ひな訣ではない。無条件に好きな訣でもないが、才能は豊かだと思ふし、演じるキャラによつては最高だ。神楽とアルフォンスが特にいい。昨晩飯喰ひながら流し見した二本のアニメの両方(「大江戸ロケット」と「ムネモシュネ」だつた)にも出演してゐた。最近観た作品の中に出てゐないものを探す方が難しいくらゐだし、それはそれでいいと思ふ。ただ、「今はこの作品を『あの声』で染め上げられたくない」といふものがあつて、それがたまたま「とらドラ」だといふだけのことだ。多少手遅れであつても、全台詞について感染してしまふ前に予防措置だけはしておきたい。その病の名前を、釘宮病といふさうだ。

まあ、アニメ欲の薄まつた今の自分には、あまり関係なささうな病気なのが幸ひだな。にひひっ。