大和但馬屋日記

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さやうならバーニー

昨日のスペインGPであつたこと。

スタート前、國際映像のカメラが觀客席のある男の子を捉へてゐた。全身にフェラーリを纏つた、どこにでも居るF1ファンの子供の一人だ。スタート直後、ライコネンがフェルスタッペンと絡んでクラッシュ。この時、先の男の子が顏をグシャグシャにして泣く姿がTVに映し出された。レース中盤、ベッテルが先行するボッタスをストレートで拔き去つた時には、滿面の笑みで喜ぶ同じ男の子が捉へられた。すつかりTVクルーに氣に入られたとみえる。レースも後半になつた項、今度はその男の子がフェラーリのピットに招かれてライコネンと記念冩眞を撮る樣子が映された。コース上で最高のバトルが繰擴げられてゐた一方で、こんな「ハートフルな」映像がファンの心を摑んでゐたのだつた。これを見て、「ああ、F1は變つたな」と直感的に思つた。

レース前には二座席のF1ライクカーによるF1マシンの擬似體驗ができることを喧傳されたり、豫選後のトップ3インタビューを放送席ではなくホームストレートのグリッド上で行ふなどの試みも爲された。マシンにはゼッケンナンバーが大書される樣にもなつた。いつの頃からか、テレメトリーで把握してゐるからといふ理由でカーナンバーは肉眼ではつきり見えなくてもよいことになつてゐたのだつた。どれもこれも、大したことではない。ただ、慣例で何となく蔑ろにされてきた、あるいは各チームのプロモーションに任されてゐた「現地でのファンサービス」について、多少なりと本氣で見直さうといふ動きがあつたことは窺へる。

それを象徴するのがフェラーリファンの男の子に纏はる一連のTV映像だ。一部には「ヤラセ」を疑ふ樣な意見もあるし、さう疑はれても仕方のないくらゐ完璧な演出だつた。しかしヤラセ説には致命的な穴がある。ライコネンのクラッシュまでが仕込まれたのでなければ、そもそもその後の展開も起り得なかつたのだから。ともあれ彼に目を付けて追ひ續けたTVクルーと、その映像を見て男の子をパドックに招き入れたフェラーリチームスタッフの連携ぶりは見事。「サーキットに來ればいいことがあるかもよ」とアピールする絶好の機會を得て、最大限に利用してみせたのだから。ああ、流石アメリカのメディア屋さんは一味違ふな、と思つた。

お高く泊まつたバーニー・エクレストンの體制とは違ふんだと証明してみせたのだから、新生FOAにはライトスタッフが揃つてゐるのだらう。かういつた興行面について、變つたと感じる程の影響がはつきり見えたといふことがちよつとした驚きであつた。それが實際どこまで良かつたこととして殘るかは續けてみないと判らないけれども、今のところは惡くないと思ふ。