大和但馬屋日記

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先入觀

こうの史代作品を電子書籍で買へるものは全部買つて熱病に浮された様に讀んでゐる。随分前「タ凪の街 櫻の國」がネットで評判になつた時に買つて讀んで、打ちのめされて以來他の作品も敬して遠離けてきたのだ。どのくらゐ打ちのめされたかといふと過去の日記で「讀んだ」といふことすら記してゐないくらゐだ。正直、「この世界の片隅に」の映畫を何故觀に行つたのかも自分でうまく説明できないくらゐに避けてゐた。それはたぶんこうの先生自身が感じてきたであらうやるせない悔しさの元ともなる先入觀である筈で、そこは何とも申し訣ないが人生のあらゆるものは先入觀によつて阻まれるのだ。

で、輕さうなのから順に讀んで辿り着いた「長い道」。これが何とも面白い。「さんさん録」も面白いがこの「長い道」は、何だこれ。變な既視感があると思つたら攖玉吉「ラブラブルート21」だ。全く似てゐる訣ではないが、何故か思ひ出さずには居られない。その源流を辿るとつげ義春とかになるのだらうか。それとも何か違ふがまあええか。

テンプレ的な幸福觀や、物語論的な豫斷を打砕くのが今作の持ち味なのだとすれば、ここでも先入觀と戰ひ續けてゐるのだらう。