大和但馬屋日記

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夏の読書

何冊も買ひ込んでおいたのに、ほとんど読む暇もなかつた。

放送禁止歌(森達也,光文社知恵の森文庫,ISBN:4334782256)

重い本だ。この本を読めば、まだテレビといふメディアから良心が失はれたわけではないのかもしれないといふ気になる。しかし現実に目を向ければやはり暗澹たる気持になるのを抑へられない。
今まで「竹田の子守歌」の背景を知らずにゐて、オフコースの3rdアルバム「秋ゆく街で」を何の疑問も持たずに聴きもするしカラオケで無邪気に歌つたこともあるけれど、心に楔を打ち込まれた今、同アルバムを無心に聴けるかどうかの自信がない。かういふ気持になること自体が情けなくも腹立たしい。

報道危機(徳山喜雄,集英社新書,ISBN:408720197X)

暗澹たる気持の実体を探るために。冷静な態度で貫かれた内容で、現状認識には大いに役立つた。ぬるいといふ話もあるが、将来的にどうあるべきかは手前で考へなくてはならないのだらう。別にオレは報道人ではないけれど、受け手だつて当事者だ。

イリヤの空、UFOの夏その4(秋山瑞人,電撃文庫,ISBN:4840224315)

念のため。ネタバレ回避の努力はしないのでさういふのを気にする人は以下を読まない様に。


予定調和、と言つて良いのだらう。予想通りとか期待外れとかさういふネガティブなことを言ひたいわけでなくて、予定調和に至るまでの描写でどこまで読者の感情を揺さぶり掻きむしり持上げ叩き落せるかに挑んだ作品だと思ふ。文庫書下しのエピローグの中で、(恐らく意図的に)それが示されてゐる。

私たちは、奪うために与えていたのです。

これが全てだらう。そして、その手腕は本当に見事だ。
「かうなつて欲しい」といふ願望と異なる結末だから「期待外れ」などといふ感想はオレの読書姿勢からは出てきやうがない。ただ、物語としてみた場合にこのエピローグ自体は無くても良かつたのではないかと、電撃hpの連載を読んだわけではないけれどさう思つた。