大和但馬屋日記

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リップアニメーションについて思ふところ

CGで口を動かすときは、だいたい「あ」「い」「う」「え」「お」と「両端を吊り上げた形」「両端を下げた形」その他もろもろの形をあらかじめ作つておいて、それらの形をブレンドしながらモーフィングさせるのが一般的だと思ふ。ワークフローとしてはモデリング担当者が形を作つて、セットアップの担当者がモーフィングの仕込みをして、アニメーターが実際にそれを動かすといふ分業体制になつてゐるだらう。よほど小規模なプロジェクト*1でない限り全部を一人が兼任することは稀だと思ふ。
で、まあ無難に「あいうえお」の形が作れるCGモデルが手許にやつてきたとして、すでに収録された台詞に合せてリップアニメーションをつけようとすると、つい発声の一音一音について馬鹿正直に口の形を対応させてしまふんだよな。なぜなら、それが一番楽だから。さう、動きは多いけど楽なんだよ、センスも何も必要ない機械的な作業なんだから。
例へば「謝れ! レイラさんに謝れ!」‥‥なんてシリアスな台詞は「ぐっどだよ! ぐーっど!」には出てこないけれども‥‥といふ台詞に合せてアニメーションを付けようとすると、「あ・や・ま・れ、れ・い・ら・さ・ん・に・あ・や・ま・れ」、つまり「あ・あ・あ・え、え・い・あ・あ・ん・い・あ・あ・あ・え」といふ形に口をパクパクさせておしまひ、となる。でもこれを実際にレンダリングして音に合せてみると、口が物凄い速さでパクパクしててものすごく不自然なんだよな。困つたことに、「ぐっどだよ! ぐーっど!」でもさういふカットが沢山ある。
不自然なのは当り前である。同じ台詞を自分で言つてみればよい(これをしないアニメーターがCGの世界には居るのである)。「謝れ! レイラさんに謝れ!」と言ふとき、唇は「ま」の発音の際に一瞬閉ぢるだけで他は開きつぱなしであるはずだ。「れいらさん」も発音としては「れーらさん」であり、しかも「さん」の「ん」をいふ時口は閉ぢない。一文字の「ん」を発音するときと「さん」の「ん」では口の形は全く違ふのだ。唇の形だけに着目した場合、この台詞での動きは極めて少ない。否、この台詞に関らず、日本語の発声において唇の動きはほとんど重要ではないと言つていい。怠惰な日本人はさうなる様に少しづつ発音数を減らしてきたのだから。
ではそこだけでもリアルにしようと思つて唇の形だけ忠実に真似てアニメーションを作つてみると、今度は台詞のわりにほとんど口が動いてゐなくてまたまた変に見えてしまふはずである。それもそのはずで、発音の際に重要なのはむしろ舌なのである。前出の台詞でも、舌と顎はそれなりに動いてゐるはずだ。しかしCGアニメでそこまでの仕込をすることは滅多にない。トゥーンレンダリングのデフォルメキャラともなればなほさらだ。舌なんて初めから作られてゐるわけがないし、顎だつて開閉できる様に作られてはゐない。
ではどうすればよいかといふと、結局セルアニメの手法を採り入れるしかないんぢやないか。発音数とは関係なく、台詞の長さに合せて適当なタイミングで口をパクパクさせる。「あ」「い」「う」「え」「お」の形をトレースするのではなく、その時の感情に沿つた形の口のまま、「喋つてゐる」といふサインとしての開閉をさせる。もちろん適当にやつてゐても駄目で、従来の伝統的なタイミング取りのセンスが必要。CG畑のアニメーターには難しいかもしれんね。
モデリングやセットアップの段階でそこまで読んで仕込をするのは大変といふか、モデリング先行のプロジェクトではほとんど無理だつたりもするんだけど、CGアニメが「CGつぽいから駄目」と言はれないためにはさういふところに気をつけないといけないんぢやないかな。

*1:うちのことだ