大和但馬屋日記

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今日も元気にドカンと隕石

揺籃の星(上)(下)(J・P・ホーガン/内田昌之訳,創元SF文庫,ISBN:4488663230,ISBN:4488663249)揺籃の星 下 (創元SF文庫)揺籃の星 上 (創元SF文庫)

ネタバレ回避しないので、以下読みたくない人は注意。
オレの様な浅学の徒でも、よりによつてこのネタかよ! と思つたくらゐだから、「と学会」シンパのSFファンの人などは読み進めるのはさぞしんどかつたのではないかと思はれる。「衝突する宇宙」を全肯定して下敷きにしたSFといふことで、そのへんの描写に対するツッコミは詳しい人に任せるとしよう。このテーマを選んだホーガンの意図は分らないけれど、SF作家として「衝突する宇宙」を全肯定した話を一本書くといふのは、実に挑戦し甲斐のあるテーマだらうな、とは思ふ。それ以上の深読みはしても仕方ないんぢやないかな。
で、オレ自身の感想はといふと、やはりしんどかつた。殊に下巻。
上巻では、木星から飛び出した彗星が大きく輝く空の下、主人公の原子力エンジニアであるランデン・キーンが「衝突する宇宙」そのままの主張を世界に投げかけて、間近に迫る彗星の危機を訴へるが一笑に付される様を描く、といふと全然違ふ話みたいだな。まあ全然違ふけど、そんな感じだ。読み始めの印象は、やはりどうしても「星を継ぐもの」を思ひ出してゐた。しかし最近のホーガンらしくディテールの描写が異常に細かくて、読んでゐるこちらとしては想像力を働かす必要を全く感じない。おかげで本一冊使つて話の進み方はまだこんなものかよ、と思つたところで大転換。
下巻においては「彗星が軌道を変へて地球に向つてゐる」との観測結果を世界が認めざるを得なくなり、数十年前に地球を離れて土星軌道上に移住し、独自の科学的社会を築いた「クロニア人」が地球へ危機を伝へに来るのに用ゐた宇宙船を脱出の手段として強奪しようとする勢力と主人公達との攻防と、接近する彗星の影響で刻々と異常さを増す地球環境、そしてつひに訪れる地球の滅亡を間一髪で逃れてクロニア人に迎へ入れられる主人公たち、といふところで話が終る。さう、地球は滅んでしまつたのだ。
で、この下巻がしんどいの何のつて。上巻同様の余すことないディテールでカタストロフの様子を描き尽くすので、それを追ひかけるだけでもういつぱいいつぱい。小川一水の「復活の地」を読んでさほど間がないだけに、「もう大災害ものはいいよ」とうんざりしてしまつた。実は上巻を読み終る頃までは「如何にして地球は危機を脱したか」といふ話になるものと思ひ込んでゐただけに、下巻の後半ではクラクラしながら読み進めてゐたものだ。
今後、滅んだ地球が再生する様を描くのか描かないのかもわからないけど、ともかく三部作として構想されてゐるとのことなので、今後の展開を待つしかなからう。
「ミクロ・パーク」の時にも指摘した通り、ホーガンの文章が如何にも映像化を意識したものになつてゐて、人物の軽妙な会話もまるでドラマの脚本の様だ。読みものとしては面白い反面、物語としてはテンポが悪くなつてゐる気もする。どんなもんだらうね。
やつぱりどうしても最初に衝撃を受けた「星を継ぐもの」と比べてしまふ。良くも悪くも、随分変つちまつたよなあ。