大和但馬屋日記

はてなダイアリーからの移行中

チャンネルを増やすといふこと

買つてきたファンソニックを繋いで色々試してみた。
何をする装置かといふと単純で、20〜150Hzの所謂「重低音」を鳴らす振動体の仕込まれたクッションである。入力は普通のアナログ音声信号のみ。他の何か特別な信号で駆動するものではない。
験しに音楽をかけてみると、ベースやリズムに反応してドンドン震へる。震動は結構強烈で、ひよつとすると近所迷惑かもと思つてしまふ程だ。大丈夫だとは思ふが、深夜は少し絞つて使はう。
震動とは即ち音そのものなので、クッションを身体から離すとそれなりに音が聞える。丁度、隣の部屋から壁越しに聞えるオーディオの低音に似てゐる。やはり近所迷惑かも。一往鳴らし放しにしてから隣の部屋やキッチンに移動してそれなりに大丈夫だと確認はしてみたが、低音はどう響くか判らないからな。まあ、うちのマンションは向ひの高架道路のせゐで二十四時間絶えず微震状態なので大した問題にはならないだらう。
で、一番の興味はやはり「Forza2」でどうか、といふ点にある訣で、タイムトライアルで試してみた。以前、発売前の試遊会で同じ物がコクピット筐体にセットされてゐたけれども、その時は「Forza2」そのものを感じるのに精一杯でそこまで気が回らなかつた。
走つてみると、意外にエンジンの震動は感じない。エンジンの音は何だかんだ言つて結構高い周波数なので、ファンソニックのカバーする帯域からは外れてゐる。僅かに含まれた低周波か、あるいはロードノイズそのものが効いてゴロゴロとした震動が腰に伝はるのは却つてリアルな感じだ。「タイヤが転がつてる」といふ感触がある。
強烈なのは縁石に乗上げた時で、「ガガガッ」と突上げるやうなショックがくる。グリーンに飛出してしまふと全く何の震動もない。ウォールにぶつかると「ドンッ」とくる。
要するに、ワイヤレスレーシングホイールや標準コントローラの震動機能を補強する形で腰に新たな情報が付加されるイメージだ。事前の期待としてはエンジン音に合せてブワッと震動するものと思つてゐただけに最初は少し拍子抜けしたが、しかし、これは地味に凄いかもしれん。今まで聴覚と手に感じる僅かな振動で感知してゐた情報を、別の経路で感じる様になつた。すると不思議なもので、今まで普通に処理してゐた筈の音や手からくる振動を殆ど感じなくなつてしまつたのだ。
極端な話、サラウンドヘッドホンから聞える音すらも中高音以上だけに感じられ、低音部が「音」として認知され難くなつた。もちろん、宣伝文句にもある通りファンソニックの担当する帯域がヘッドホンではカバーしきれない部分であるといふこともあるだらう。しかしそれ以上に、体の別の部位が新たな情報経路となつたこと自体が面白い。
以前、自転車事故で顔に大変な怪我を負つた時に、手にも化膿する程ひどい擦り傷が出来た。普通ならそれだけで夜も眠れない痛みを感じさうなものだつたが、首から上の余りの惨状に手の方の痛みは治るまで全く感じなかつた。ああ人間といふのはさういふ風に出来てゐるのだなと妙に納得をしたものだ。それと似た理屈なのかどうかは判じかねるが、身体情報のチャンネルが増えるといふのは面白いものだ。少し予想とは異る結果とはいへ、いいものを買つた。