大和但馬屋日記

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幽鬼の浜

ゆきの浜語り草

島の二つの集落を結ぶ海沿ひの道の途中に巨岩が頭を覗かせる「ゆきの浜」といふ場所がある。子供の頃に父から聞いた話ではここを「いしぐろ」といつて,道が整備されるより前に浜を往来してゐた頃は難所であつたらしい。そればかりか,「いしぐろのバケ石には海に引き込む化物が出るから,夜には絶対に近づいてはならない」と脅されてゐた。時化た時や大潮の時などは,山の上を迂回する道を通らざるを得なかつたやうだ。
最近この浜に下水処理場が落成し,全島の便所が一気に水洗化された。本土の笠岡市ですらまだ完全には整備されてゐないはずで,田舎故に便利になることはあるものである。処理場に併設された公園(たぶん地下施設があるのだらう)に,姿を消したゆきの浜を偲んで掘り出された巨岩がモニュメントの様に置かれ,ゆきの浜の伝承についても解説されてゐた。
それによると古来「幽鬼の浜」であつたのを慶長年間に好字をあてて「雪の浜」に改称したとあるから堂に入つた話だ。
画像はその解説碑に添へられた挿絵。「セノ高イおばけバケ石ニ居ル」とあり,その「おばけ」が小坊主の妖怪を使つて沖の漁船を浜に引き寄せようとしてゐる。漁師は「早クイケ綱ヲ引パレ友綱ヲ切ッテヤルソラー」と叫んでゐる。下手糞な絵であるが故に怖い。オレが子供だつたら,こんな絵のある公園に一人では遊びに行かない。狙つてのことかどうか,「ゆきの浜に近づくな」といふ伝承は保たれてゐるやうなゐないやうな。