大和但馬屋日記

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運動エネルギー回収システム

マクラーレンの与太話はさておいて、運動エネルギー回収システムといふ存在自体が与太じみた代物は、しかし現実に来季から導入されると決つてゐる。大義名分としてはエコ対応といふことだらうが、エンジンの規格が固定化されてメーカーの参戦に旨味が無くなつた今、無闇なスピードアップ以外のところで技術競争の余地を作らうといふのが実際の狙ひなのだと思ふ。
要は減速時に熱として放出されるだけの運動エネルギーを別の形に転換して蓄積し、予備動力として再活用するシステムを搭載しなくてはならないといふもの。電車なら回生ブレーキといふものが何十年も前から採用されてゐる。電気自動車にも同様のものがある。専らガソリンエンジンを使ふF1ではどうするのか。
恐らく、多くのチームではやはり発電ブレーキを搭載してバッテリーに蓄積し、モーターで加速補助を行ふといふ形で実装することになるだらう。たぶんそれが一番低コストで原理的にもやりやすい。
しかし、チームによつてはフリクションホイールに運動エネルギーを直接保存する方式も検討されてゐるといふ話がある。

概念的には面白い。しかしこれは実用的なものになるだらうか。素人考へだが、パトリック・ヘッドが言ふ様に毎分十万回転もの回転運動をするフリクションホイールを車体に搭載すると、猛烈なジャイロ効果が発生する。コーナリングの減速時に車体内にそんな運動を保存してしまふと、挙動が極端に安定してしまつてヨーが発生しなくなるのではないか。つまり、舵を切つても簡単には曲らない車になりさうなものだ。
しかし、かういふところで奇策を投じてくるチームがあつて、それがウィリアムズであるといふ辺りにまだまだF1は健在であるなあと、妙に安心してしまふのであつた。
でも冷静に考へたら、コーナーで他車に乗り上げて宙に浮いたマシンがフリクションホイールの所為でどんな動きをするか分らんので、早晩回生電気方式に方針を切換ることになるんぢやないかな、残念ながら。
無い知恵絞つてイメージしてみた。

フリクションホイールはたぶんギアボックスの中か隣、少なくともエンジンブロックからさう遠くない場所に設けられる筈。それなりの質量がなくては役に立たないから、車体の重心に近いところに置かれるに違ひない。大きさはこんなにデカい訣がないので、そこはあくまで概念的に。
で、これをブレーキ代りに使ふといふことは、タイヤの回転(1)をドライブシャフトを介してフリクションホイールの回転(2)へと移動させ、タイヤの持つ回転力を失はせるといふことになる。この時、車体には反作用で逆向きの回転力が発生する(3)。ただし、フリクションホイールの位置が車体の重心と一致するのではない限り、これが即ち車体にピッチングを発生させる訣ではなささうだ。故に、ヘリコプターのメインローターが発生する反トルクの様な心配は無用といふことだ。
フリクションホイールの回転軸がドライブシャフトと異なる角度になる可能性は、たぶん無いと思つた。軸が上下に立つとヨーが、前後になるとロールが発生してどちらもよろしくない。特に前後軸は車体のロールの中心と近くなるので、挙動に対して致命的な影響を与へるはず。ロータリーエンジン車が、ローターのトルク故に左右のコーナリング特性が変るとか変らないとかいふ話を小耳に挟んだことがあるけれども、F1ともなればそれに類する影響が無視できないレベルで現れさうだから、たぶん軸方向の変換は行はないと思ふ。
挙動への影響を最小限にするなら、フリクションホイールを複数にして片方の回転を反転させて釣合いをとるのかもしれない。その場合は当然、機構が複雑になるだけ重量的に不利になる。
車体にかかる回転力のことは考慮しなくてもよいとして、どうしても気にかかる問題は「あとで再利用可能なほどの運動エネルギーを蓄へた物体を車体に保持してゐること」だ。まあ、車体にかかる回転力のことを考慮しなくてよいのなら、コーナリングへの影響も考へる必要はないといふことになるはずなのだが、なんとなくそこに引掛りを覚えてしまふ。ワシの頭が固いだけか。
なんといふか、ジャイロ=安定感の象徴=クルマがまつすぐ行つてしまふ=コーナーでドアンダー、といふ図式がこびりついて離れないのだ。困つた。同じ理屈で考へれば、縁石なんかでマシンが跳ねた時にも車体が安定する筈だから、コーナリングが安定する=アクティブサスの代りになる、といふ考へ方も当然できる訣だな。ウィリアムズが電気式を捨てて狙つてゐるのは、たしかにさういふ効果なのかもしれない。
以上、素人の浅知恵。

  • 2008年07月01日 funaki_naoto design, 車