大和但馬屋日記

はてなダイアリーからの移行中

昨日の敵は今日の××、といふ名の歴史の捏造

yms-zun2006-09-15

任天堂のWebサイトにMSXの文字とロゴを観ることができるようになるなんて未だに夢なんじゃないかと思ったりします。

さう、ワシも同じことを思つた。んでもつて、MSXのMSは元を正せばMicrosoftのMSなんだよな、とか考へると感慨も一入。PS2を起動した後に浮び上がるSEGAのロゴを目にした時もしみじみしたもんだけど、何だかそれ以上のものがあるな。
まあ、メーカー間の争ひといふ目で見ればそんな単純な話ではないんだけど。80年代中ごろの家庭用ゲーム機と家庭用パソコンの派閥争ひを簡単に表すとこんな感じか。

パソコン

大手
  • NEC
  • 富士通
  • シャープ
    • パソコン事業部(MZ系)
    • テレビ事業部(X系)
その他(MSX派)

ゲーム機

大手
その他
  • 割愛

表向きゲーム機の世界とパソコンの世界は無関係を装つてたんだけど、パソコンやつてる方は何とか家庭用の販路を広げたいんでゲーム業界の方に色目を使ふやうになつてきた。まあ、任天堂ごときに負けたくないといふ自負もあつたんだらう。そんなわけで大手三社以外の家電メーカーもそれぞれ独自規格のパソコンを作つてたけど、ほとんど鳴かず飛ばず。そこでMSXといふ統一規格の下に集まつて「ファミコンに張り合えるパソコン」を売らうとした。実はこの時パソコン大手の富士通も参加してFM-Xなんてものを発売したんだけど、すぐに無かつたことにしてゐる。
MSXマイクロソフトアスキーが策定した規格だけど、NECのパソコンに搭載されたBASICもMS系だつたりするので、まあ当時からマイクロソフトといふのは影響力があつた。シャープはMS系でない独自のシステムを採用したが、それを開発してゐたのがハドソン。このシャープとハドソンはファミコンの開発に協力してゐて、任天堂との繋がりは特に深かつた。
さて、MSX陣営だが、実際にファミコンと張り合はうとすると「気軽に買ふには値段が高すぎる」「ゲームをするには性能が低すぎる」、パソコンとしては「大手のパソコンに比べて性能が劣りすぎる」といふ訣で、まあ惨敗に終つた。性能面での梃入れを目指してMSX2といふ規格にバージョンアップしてみたが、値段が高すぎて誰が買ふのか、といつた状況がしばらく続いた訣だ。松下とソニーが揃つて価格破壊的な普及機(Panasonic A1とHB-F1)を発売して、やつとMSXにも春が訪れたと言つていい。その代り松下とソニー以外のメーカーは価格競争に加はれずにほぼ全滅し、パソコンからもゲームからも完全に撤退してしまつた。
大手はどうしたかといふと、何とNEC任天堂に真向勝負をかけた。PCエンジンの発売である。これを設計・開発したのはハドソン。ゲーム機のノウハウを身に付けたハドソンがNECをそそのかした、といふ風に見えたのは正しかつたかどうか知らない。ともあれ、結果的に家庭用ゲーム機を任天堂vsセガvsNECといふ図式に持ち込むことに成功したのだから、大したものではある。
この時、よく分らない行動を取つたのがシャープで、ツインファミコンだのファミコン内蔵テレビだのといつたものを作つておきながら、なぜか名機X1とPCエンジンを合体させたX1twinなるパソコンを発売してゐる。まあ、ハドソン絡みであることは誰にでも分るけれども、一つの箱に入つてゐながらX1部分とPCエンジン部分に一切の互換性がないといふ呆れた仕様に皆言葉を失つた。PCエンジン用のジョイパッドとX1用のジョイスティックすら兼用出来ないのだから訣がわからない。あと、この頃にはとつくにX68000が登場して「高級ファミコン」の地位を築きつつあつた。
富士通はこの頃、目立つてゲーム方面に波風は立ててゐない。FM-77AVシリーズなどでパソコンの高性能化に専心してゐた様に見える。
セガメガドライブを、任天堂スーパーファミコンを出して、いよいよゲーム機の世界も16ビットになつた。NECはビジネス用途でPC-9801シリーズが確固たる地位を築いた余裕もあり、ゲームの方はPCエンジンに完全に任せてゐた‥‥かと思ふとさうでもなくて、X68000に対抗すべくPC-88VAなんてものを作つて結局大敗してゐる。富士通FM-TOWNSを出して、そこそこの健闘を見せた。

パソコン

大手
マニア向け
  • シャープ
    • テレビ事業部(X系)
  • 富士通

ゲーム機

大手

先の図から消えたメーカーがどうしたかといふと、それなりに雌伏の時を狙つてゐたりゐなかつたり。
PCエンジンCDロムロムFM-TOWNSの登場は、CD-ROMメディア時代の到来を告げた。スーパーファミコンの開発環境を作ることで任天堂と協力関係を築いたソニーは、スーパーファミコン用CD-ROMを開発。しかしこれは任天堂の掌返しとされるフィリップスとの提携事件で白紙撤回、怒りに燃えたソニーはゲーム機の分野で任天堂を倒すことを決意する。そしてプレイステーション発売。
ここまであまり話に加はつてこないセガはあくまでゲーム機に専心してゐた‥‥様にみせかけつつ、メガドライブと80286を搭載したDOS/V機を合体させたテラドライブなる珍品を発売してしまつた。まあ、X1twinと大同小異の代物で、「だからあ、その二つが一つの箱に入つてる意味は何」と問詰めたくなるものでしかなかつた。RGBモニタで見る異常にドットがくつきりしたメガドラの画面は一見の価値ありだつたけどね。そのセガメガCDを経て、任天堂ソニーに真向対決するセガサターンをリリース。MSXの大敗で家庭用コンピュータから撤退した日立のチップをメインプロセッサにしてるところが面白い。
ゲーム機御三家の一角を担つたNECは16ビット機を出さなかつた失地を回復するためにPC-FXを発売。そして無残に散つた。その後、唯一の牙城だつた国内標準機PC-98シリーズもPC/AT互換機の波に押されて姿を消した。さういへば「NECのコンピュータ」を家で見なくなつたよなあ。
富士通はCD-ROMの先行者としての優位性(があつたかどうかは別にして)を武器に、FM-TOWNSをゲーム機サイズにダウンサイジングしたTOWNSマーティを出して玉砕。海の向うからは似たコンセプトのピピンアットマークなんてものがやつてきたことをたまには思ひ出さう。忘れていいけど。
もうひとつ、プレステやサターンに先行して海の向うからやつてきたCD-ROM付きのあいつ。さう、3DO-REAL。これを日本で売らうとしたのが、MSX界をソニーと席巻しつつ次のステップに進みあぐねてゐた松下だつた。まあ、これも結果的には大火傷だつた訣だが。
そんなこんなで1995年あたりの勢力分布はこんな感じか。

パソコン

一人勝ち

ゲーム機

討死

シャープはX68000の終了とともに家庭用ホビー分野の表舞台からは姿を消し、一時目立たなかつたパソコン系の事業部はメビウスで息を吹き返してNECの独占体制を滅ぼす一翼を担つた。Windows95の登場とともに、パソコン界はマイクロソフト一色に染りつつあつた。ゲーム機での討死に組も、あくまで本業はWindows搭載パソコンの方にあつた。もちろんアップルを除いて。一時期は富士通がこの分野で圧倒的な強さをみせた。
その後のことはもういいだらう。松下が任天堂と協力してゲームキューブを開発したり、携帯ゲーム機の液晶といへば大抵シャープ製だつたり、いろいろ変遷はある。ゲーム機のハード戦争の裏で暗躍したハドソンも今やコナミの傘下企業だ。そして今やマイクロソフトが自らゲーム機の分野に降臨。‥‥それが成功だつたか失敗だつたかは、また二十年後くらゐに判断しようや。
そんなこんなをぜんぶ「あの頃はいろいろあつたよなあオレら」と言はんばかりにひつくるめてまとめてしまふのがWiiバーチャルコンソールなのだとしたら、ええと、なんていふか、ずるいよなあ(何が)。
一往念の為に注記しておくけど、上記はあくまでバーチャルコンソールに話を繋げるために都合のいい事実だけをピックアップした捏造的な歴史なので、間違つても「参考になる」とか思はないやうに願ひますよ。だいたい日本だけで話を進めるのが有得ないしNECとNECHEを分けたりしてないし云々。井の中の蛙史観といふやつで。