大和但馬屋日記

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ついでに「千年女優」の感想

id:deeper:20060419:1145388217で「千年女優」に触れられてゐて、丁度私も先日ANIMAXで観た直後に何かを書かうかと思つたところなのでこれ幸ひと便乗してみる。
この作品を観て思つたことはただひとつ、「これはスクリーンに映しだされた藤原千代子のすべてを愛でる作品なのだな」と。そして、その意味において全く申し分なく成功した作品であると。今敏監督以下スタッフすべての神経がその一点に注がれてゐて、観客の意識も否応なくそこに向けられる。
だからそれ以外の部分、話の前後の脈絡とか、千代子自身の行動原理とか、そんなのはどうでもいい。それらは千代子を「魅力的」に動かすためのお膳立てにすぎなくて、千代子が「魅力的」に動いてゐるかぎり全てが肯定される。「スクリーンに映しだされた藤原千代子」と書いたのは二重の意味を含んでゐる。一つはもちろん劇中の映画女優としての千代子、そしてもう一つは「千年女優」といふアニメのキャラクターとしての千代子。観客たる自分は、そのどちらも併せて「ああ、可愛いなあ」と愛でてゐればよい。もちろん年老いた千代子をすらも。
物議を醸したらしい最後の台詞こそ、それを象徴してゐるのではないか。あの台詞によつて、千代子は常に「魅力的」な存在であり続けることを自ら宣言し、そのトートロジーによつて初めて「千年女優」といふタイトルが完成したのである。従つて「全然『千年』と違ふやん」などといふツッコミは無効、といふかそれは「千年女王」の話。
あの台詞に幻滅を感じた人は、たぶん「愛でる」といふ一線を踏み超えて千代子を自分の側に引き寄せてしまつたのだらうな。