大和但馬屋日記

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取り付く島

きぼう船外プラットフォーム

ISS日本実験棟「きぼう」船外プラットフォーム。ここに各種実験用モジュールを固定して、宇宙空間に直接晒した時の影響などをみることができる。並んでゐる箱状のものは実験用モジュールのダミーか何かだらう。ユニット全体がビニールハウスの様なもので覆はれてゐて、環境管理が慎重に行はれてゐることが窺へる。石川島播磨重工のロゴも見える。
注目したいのは写真中央のマンホールの蓋の様に見える丸い部品。これは昨日のロボットアームの手がモジュールを掴むためのマウントで、全ての実験用モジュールの上面にこれが装備されることになる。ロボットアームはこれを掴むことに特化された形をしてゐて、その先端は常に真下を向き、如何なる場合もプラットフォーム面に対して水平を保つ様になつてゐる*1
素人としてはついつい「もしもモジュールを落としたら」とか、「水平を確保できなくなつたら」などといふ想像をしてしまふが、JAXA的には(そしてたぶんNASA的にも)それは有り得ない事態なのだらう。別の棟で「きぼう」実験モジュール運用管制シミュレーションを見学した際に知らされたのは、とにかくミッションのありとあらゆる手順において「人為的な突発的事態」の起らないことが最優先課題なのだといふこと。ロボットアームの上げ下ろしは当然のこと、アームがマウントの位置に動いてから実際にそれを掴むコマンドを送信する手順、あるいはそれを監視するカメラのズーミング、さらには「きぼう」室内の空調の温度調節ひとつに至るまで、ミッション中に何かを操作するには必ず「今から行ふ操作内容の確認」「実行の前のカウントダウン」「実行したといふ報告」「結果の確認」といふステップが踏まれる。操作レベルで個人の独断の入り込む余地はない。宇宙空間でのミッションはすべてがクリティカルなのだから、それが当然だらう。諒解の合図の「copy.」といふ言葉はアニメのプラネテスでも散々出てくるが*2、それは如何にも日常的かつ日本的な意味合ひでの「わかりました」とか「はい」ではなくて、言葉通り「あなたの意図を正しく理解して、その通りに動きます」といふだけの重みが伴つてゐるのだ。アニメのタナベはその点で宇宙に出る資格なしだよな、とかそれ以前にデブリ課の管理職どもは何故あんなところにゐることが許されてんだ? とかなんとかプラネテスを観てるともにょもにょする。
話をロボットアームに戻すと、アームは必ずプラットフォームに固定されたモジュールを掴むことになつてゐるし、モジュールはアームに完全に固定されるまではプラットフォームから切り離されることはない。逆の手順もまた然り。三点支持で岩登りをするのと同じで、何かがフリーの状態になることは手順的に有り得ないといふこと。この点を理解した目で再びアニメを見れば、プラネテスですらちよつと考へられないくらゐ自由に宇宙を飛び回つてゐるのが分るし、それ以外の宇宙物のアニメはリアリティといふ点では全滅だ。もちろん、その意味で完全にリアルに徹したアニメなんてのがあつたとしたら、それはたぶん絵的に全く退屈で糞つまらないものになることは間違ひないんだけど、それをどう面白く見せるかといふチャレンジももつとあつていいよな。とか何とか言ふだけなら楽さね。

*1:上とか下とか水平とかが宇宙にあるものか、といふツッコミは却下。宇宙では足のある方が下だ!!

*2:漫画にはなかつた気がするな