はじめに
「スターフォースはシューティングゲームの姿を借りたピンボールである」ことについて。これはもう,確信を持って言えることなので詳しく説明させていただきたい。
まず前回のおさらいとして,ピンボールが本質的に持っている要素をもう一度挙げておく。
- シンプルな操作
- 運とテクニックの適度なバランス
- 個々の独立した要素の組み合わせによる重層的な展開
- 我慢と努力の積み重ねの結果得られる莫大な見返り
- 時に非情とも思えるあっけない幕切れ
これらと「スターフォース」の関係について論じる前にあらかじめ断っておくが,一口にピンボールと言っても時代からしてさまざまで,内包するゲーム性もバリエーションに極めて富んでいる。それをあえて一般化して語っているので,数多ある例外については考慮していないことをご勘弁いただきたい。
論証
さて,「スターフォース」だが,これは極めて単純で爽快なシューティングゲームとして認知されている。そして,様々な隠し要素があることでも有名だ。それらを分解して,上記の要素に当てはめてみる。
シンプルな操作
これは言うまでもない。8方向レバーで自機の移動。1つのボタンで弾を発射。これだけである。シューティングとしてはもっとも単純な形だろう。ピンボールの,左右のフリッパーを跳ね上げる操作ほど単純ではないが。
運とテクニックの適度なバランス
「スターフォース」は,完全なパターンゲームではない。地形や敵機の種類の出現順は同じだが,一機ごとの出現座標はある程度ランダムで,敵が弾を撃つタイミングや数も一定ではない。ピンボールにおいて,ボールの転がりを完全には予測できないがテクニックによってある程度のコントロールは可能という部分に似ている。
個々の独立した要素の組み合わせによる重層的な展開
「スターフォース」が特に他のシューティングとも異なる要素として,地形と敵機の出現順以外は何一つ固定されていないことを指摘しておこう。各エリアの長ささえ固定ではなく,敵を破壊することによって加算される内部カウンタが一定値に達することで,マップのどこであっても強制的に中断が入ってボスが出現する。これは極めてシステマチックであり,レーン上のスイッチにボールが接触することによってのみゲーム展開が推移するピンボールに通じるものがあると思う。
どちらの例も,機械の側に一方的に引きずられるのではなく,ゲーム展開があくまでプレイヤーの手によって左右される点が共通している。ただ単純に現れた敵を倒し続けるだけでも,やられさえしなければ先に進むことは可能だ。ピンボールが玉をこぼさないように弾いていればとりあえず何とかなるように。
しかし,よりプレイヤーに有利に展開しようと思えば,隠しボーナスの出るポイントでボス(ターゲット)を出現させ,邪魔な空中物の出現を阻止するなどの状況コントロールが必須となる。
我慢と努力の積み重ねの結果得られる莫大な見返り
前項の続きとなるが,大量ボーナスを得ようと思えばそれなりの仕込みが必要だ。「スターフォース」で最も顕著なのはクレオパトラ像を破壊して得られる100万点ボーナスであるが,これを確実に得ようと思うならば敵の出現パターンをうまく回して,ボスの出現タイミングもあわせて確実に撃ち込みができる状況を作らなくてはならない。
これはジムダステギボーナス(下記の片側の列だけ16個連続破壊して8万点)やケラ出現による1upについても同様である。
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また,各所に散らばっているBやbのターゲットを打ち逃すとボスを倒したあとの精算でボーナスが減点となるが,この精算画面の様子はピンボールのジャックポットの精算を彷彿させるではないか。
ラリオスの中心が光った後,合体までに8発撃ち込めば5万点というのも,ランプ点灯中にターゲットにボールを当てるといったフィーチャーによく似ている。
時に非情とも思えるあっけない幕切れ
これについては,言うまでもないだろう。パーサー合体以外のややこしいアイテム装備がない「スターフォース」は,やられることに関しては本当にあっけない。
考察
さて,どうだろうか。重ねて強調しておきたいのは,ゲームの大局的な流れをプレイヤーの意志でかなりコントロールできる点だ。しかも,それは撃って避けるという極めてシンプルな動作で実現されている。
地上物の攻撃が一切ないゲームだから,絶対に抜けられない関門などは存在しない。「スターフォース」の影響下にあると言われる後のすべてのシューティングゲームと異なる点がここにある。あるのは,「今このタイミングであの敵が来たらイヤだなぁ」という苦手意識だけであり,何となればその直前でわざとミスすることで状況を変えることさえ可能なのだ。
ピンボールというのは,基本的に物理的な盤面に配置された電気的なスイッチにボールを当てたり通過させたりすることによってのみ成立するゲームだ。そういう意味ではプレイヤーに開かれたゲームだが,あるスイッチを点灯させてから他のスイッチを通すことでボーナスが成立するなど,すべてのフィーチャーを把握するにはそれなりの学習が必要となる。また,プレイヤーによってどのボーナスを発動させるかなどといった展開はある程度自由に組み立てられる反面,ボーナス発動中の時間内に条件を満たさないとせっかくの仕込みがフイになることもある。
ここまでに何度か出てきた「ジャックポット」というピンボール用語だが,訳してみれば「積み立て賞金」とか「大当たり」という意味になる。「スターフォース」をプレイしていて得られるのは,一般的なシューティングにある「破壊の快感」でも「弾避けの恍惚感」でもない。如何に各種ボーナスをうまく取るか,そして長く生き延びてそのチャンスを増やすかという組立てであり,プレイ後の充実感もいくつ思い通りにボーナスを取れたかによって左右される。
ゲームデザイナー氏がどこまで意図的にこういう仕様にしたかはわからないが,ともかく「スターフォース」というゲームは仕様のすべてがピンボール的なルールによって組み立てられている。「ゼビウス」の後に現れて,後のシューティングの規範となったという一般的な評価は巷にあふれているが,本当に評価すべき点はここで述べた点にこそあるのではないかと,今更ながらに主張してみる。