大和但馬屋日記

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時は金なり

マクラーレンとホンダのパートナーシップが解消されさうだ、とニュースになつてゐる。それを受けて「ここでも日本の技術レべルが低下してゐる」などといつた意見が見受けられるが、それは流石に違ふ。そんな單純な「國の技術レべル」でどうにかなる話であるといふなら、それに對する答は一つ。「F1を舐めんな」である。今ホンダが不振を託つてゐる理由は明解だ。「居るべき時に、居るべき場所に居なかつたから」。單純にそれだけ。技術力で片付くならその方が良かつたが、現實は甘くなかつた。
ホンダが會社の經營の都合で第三期F1活動を人員と設備毎投げ出し*1、一切の關係を斷つてゐる間にF1の中で次世代パワーユニットの規格の策定が始まつた。技術規定をFIAの一存では決められないから、F1のエンジンメーカーが集まつてワークグループを開き、エンジンの排氣量や損失エネルギーの囘生方法、充放電のエネルギー量やアクセル開放時の燃料の流量といつたパワーユニットの基本性能からパーツ構成等の設計に到るまでの事細かな一切が、當時參戰してゐたメーカーの主導で決定された。その頃、ホンダの復歸は噂として囁かれてゐたものの、ワークグループに出席したあるメーカーの人物はメディアの質問にかう答へたといふ。
「ホンダが歸つて來るだつて? まさか、有得ない。それが本當なら、何故この場に彼等が居ないんだ?」
つまり、メルセデスルノーフェラーリが對等に何かを決めようとしてゐるその時に、その場に居ないメーカーにやる氣がある訣ないだらうと、さう一蹴されたのだ。
ところがホンダは戻つて來た。メルセデスとの關係が惡化して滿足な結果を出せないでゐるマクラーレンが供給先として名乘り出た。ホンダは一年先の參入を考へてゐたが、マクラーレンに急かされて豫定を一年前倒しにした。つまり、ホンダは「初動のタイミングを逃し」、「他チームから一年も遅れて」、「一年かけるつもりだつた準備期間をキャンセルして」ノコノコと參戰してきた訣だ。他チームと比べて失つた時間は純粋に見ても二年分、さらに規格の立上げに加はらなかつた分のハンデは時間では測れない。レースで言へば三周のスプリントレースに二周遅れでスタートしたのが今のマクラーレンホンダなのだ。そんなの、取戻せる訣がないだらう?
技術レベル? メルセデスルノーフェラーリが先に始めて最先端で鎬を削つてゐる現場に後から入つて來てそれをあつさり超える樣な技術力がこの世にある訣がない。それをゼロから作り始めたのも他ならぬ彼らなのだし。
F1バブル期のホンダが最強を謳つたのは、參戰までの準備期間を長くとつて、膨大な距離のテスト走行を繰返した賜物だといふ。結局それは、金を掛けて時間を買つたのである。轉じて今は、年間のテストの日數が嚴密に決められてゐて、メーカーやチームの財力に頼つて走行距離を稼ぐことは許されてゐない。失つた時間は買ひ戻せないのだ。參戰タイミングを遅らせたホンダにも、その上で一年參戰を早めさせたマクラーレンにも、部外者ながら「F1を舐めるな」といふ他はない。
「時間を金で買へない」ことについては、ホンダ以外の三社のPUがそれぞれ三チームに供給されてゐるのも看過せない。アロンソが自暴自棄になつてレースを棄権してゐる間に他のPUは三倍以上の量のデータを集めてゐるのである。時間の代りに高價なドライバー代をドブに捨ててゐるのだからお手上げだ。
未だに第二期ホンダF1を引合ひに出してホンダの榮光とか言つてるのは第二次大戰末期にもなつて日清日露の戰勝を誇つてゐるのと何も變らず、状況に對しては害惡しかない精神論だ。そんな考へは捨てるが良い。ホンダが勝機を見出すならば、遠からず來るであらう次期パワーコニットの技術改定のタイミングで議論にガッチリ喰ひ込んで、少しでも他社とイーブンかそれ以上の好条件を引出すことにしかない。他人の決めたスペック表通りの物を作つたって、同じ土俵に上れる訣がないのだ。
「ゴチャゴチャうるさいよ、それをひつくり返すのが日本の技術カだらう」いやそれは技術ではなく精神論。それを言つたら絶對に勝てなくなるやつだから黙れ。

*1:その投げ出された人員と設備は翌年のチャンピオンとなり、現在も名を變へてチャンピオンチームとして君臨し續けてゐる