大和但馬屋日記

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yms-zun2012-07-15

ボーッとXbox360ダッシュボードを行つたり来たりして、XB0X Liveインディーズゲーム(XBIG)のタイトルを喰ひ散らかしてゐると、一つ大当りに出会つた。その名も「Gentlemen, Start Your Engines」。

タイトルとスクリーンショットを見た人ならまづ間違ひなく「デイトナUSAのパクリ」と思ふだらう、俺もさう思つた。落して遊んで、最初はやつぱりさう思つた。ていふかエンジン音はたぶん「デイトナ」のそれをそのまんまパクッてるよね。しばらくダラダラ遊んで、しかしどうも様子が違ふぞ? と思へてきた。
XBIGのゲームは当然ながら玉石混交であり、中でも車系のゲームに関してはこの時勢では「石だらけ」としか言ひ様のないもので、これを落す時にも「デイトナのパクリが如何に本家を超えてゐないか」といふ少なからぬ歪んだ興味が後押ししたことは正直に白状しておかう。しかし、遊んだ後なら言へる、これはそんなレベルのものではない。
内容は、言ふまでもなくNASCARオーバルレースをモチーフとしたレースゲームである。トラックは形の異なるオーバルが数種類。八種類四十三台がひしめくトラックを走るレースの様子は、パッと見では「デイトナUSA」の初級レースそのものだ。トゥーンシェーディングの画面が「デイトナUSA」の鮮やかなローポリ画面を思ひ出させる。運転はシンプルで、ハンドルの他はアクセルとブレーキのみ。ギアシフトもクラッチもない。ま、必要ないわな。
挙動は所謂ゲーム挙動。「Pacejka's Magic Formula」を使つてゐるかどうかは知らないが、まあ今時なら備へてゐるであらうグリップ感とスリップ感を過不足なく備へてゐて、特段をかしなところもない。「デイトナUSA」よりはよほど自然だ。ダメージの類も一切ない。ゲーム挙動でダメージなしの四十三台のオーバルレース。考へただけでさぞやカオスなデストラクションダービーが始まりさうな勢ひだな。しかし一見さうでも、さうでないのだ。
レースを行ふ四十三台は完全にイコールコンディションで、性能差は一切ない。AIにも特に優劣はなく、二周もすれば周回遅れがやつてくる様な下らないアーケードゲーム的演出もないしスローカーブーストの様な無粋な演出もない。皆が「同じ」だから、常に四十三台がすべからくして起る隊列を作ることになる。自車の性能にも差別はないから、普通に走つてゐればラップタイムにも差は生れない。これだけ聞けば地味なレースにしか見えないが、そこにスパイスとして与へられてゐるのが過剰に作用するドラフティングの効果だ。前走車の後ろにつくと、前走車に風の様なエフェクトが付く。これが見えてゐる間はドラフティング、即ちスリップストリームの効果で最高速度が一割増し程にもなる。これがこのゲームを最高に面白くしてゐる。
行列の最後尾にゐると、前方には四十台ものライバルがズラッとひしめいてゐる。ドラフティングを使つて一気に抜き去れれば良いが、なかなかさうも行かない。隊列に揉まれてゐる内に先頭集団と中団グループができてしまつて、さういふ時は自分が中団グループの先頭になつてしまふ。先頭集団のスリップに入るには距離がありすぎて、かうなるといくらベストな走りをしても絶対に追着けなくなる。ではどうするか。方法は二つ。わざと後ろの車に一旦抜かせてスリップに入り、その加速を利用して先頭グループのスリップまでスイングバイするか、わざと壁に突込んでイエローコーションにし、隊列の組直しで前との差をなくすかだ。
自分でクラッシュすることの是非はさておき、このドラフティングなしにレースが成立しない駆引きの妙は、ちよつと今まで経験したことがない。「NASCARの雰囲気をゲームにした」といふ点では「デイトナ」なんか比較にもならない。一言で言つて、センスがいい。AIカーとのバトルを楽しむといふ点では「Forza」を凌駕してゐるとすら思ふ。
たぶん制作者は「デイトナUSA」とNASCARが大好きで、「俺だつたら同じシステムでもつといいものを作れるよ」と思つて作つたに違ひない。さすが本場のアメリカ人は違ふぜ。と思つてゐたら、作者はフランス人なのな。世界は広いぜ。
車のモデリングはトゥーンシェードながらも往年のマッスルカーを的確に再現してゐて、これがインディーズゲームだから見逃されてゐるものの、本来ならメーカーの許諾を必要とするレベルのもの。なんでフランス人なんだよ。
マジで大当り。一つ要望を言ふなら、見下ろし視点固定ではなくコクピットかボンネット視点も用意してくれてたら尚良かつた。