大和但馬屋日記

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来たよ来たよ。

インドはね、まだいいよ。ケータラムもさうだつたけど、少しでもいいから見映えを損はない様にとか、空気がスムーズに流れる様にとか、さういふ気概は見られるからさ。
フェラーリ!! 何だそれ! …いや、まあ、美醜は措いとかう。「美」なぞどこにも見当らんが、それも措いとかう。わけがわからないのはそのフロントサスペンションのジオメトリだ。何だそれ!?
極端に両端の下がつたダブルウィッシュボーンを貫く、ほぼ水平なプルロッド。他のチームは、なるべくダブルウィッシュボーンを水平に保ちながらプッシュロッドの車体側のリンクを高い位置に持つて来ようとしてゐる。その方が幾何学的に効率がいいからだ。

コーナリング中に横荷重がかかるとアウト側のタイヤが車体に対して相対的に持上る。この時、ショックアブソーバーに繋がるロッドを引張る様に作用するのがプルロッドで、その逆がプッシュロッド。もう長いこと、F1の世界ではプッシュロッドが常識で、プルロッドなんてA・セナのマクラーレン・ホンダでさへ「時代遅れ」なんて言はれてた。なぜなら、プッシュロッド式ならショックアブソーバー周りの構成パーツが上側に来るのでメンテナンスがし易いし、何より力の作用に無理がなくて車の動きを設計し易い。
ところが近年、空力の研究の進歩に伴つて、リア周りが極端に絞り込まれる様になり、その為にリアをプルロッド式にする例が増えてきた。余計な構造はなるべく低いところに押込めて、リアウイングとデフューザーに風を当てる為の空間を大きく取るのが今の常識。それでも、フロントにまでプルロッドを使ふ例は、近頃ではたまにしか見かけない。
で、フェラーリだ。正面からの写真を見れば判る様に、車体の下面にガッポリ空間が空いてゐる。この空間を確保するためにフロントサスまで極端なハの字を描いてゐて、こんなアームの角度ではもはやプッシュロッド方式では幾何学的にまともには作動しない。

サスアームの回転運動に伴ってロッドは押し引きの運動をすることでサスペンションは機能してゐる。アームにあんなに角度がついてしまふと、プッシュロッドではそれらとほぼ同じ取付け角になつてしまふから、ロッドにも回転方向への力が掛つてしまひ、「プッシュ」ロッドとしては動作しないのだ。ロッドとはつまり「筋交ひ」だから、サスアームと平行に近くなつてはいけない。それで、プルロッド方式を採用したのだ、さうに決まつてる。
雑誌で読んだところだと、今のF1のエンジニアは「空力屋の好きに設計していいよ、サスのジオメトリは俺たちで何とかするから」といふ感じらしい。その行きついた先がこのフェラーリの明らかにをかしいサスアームの取付け角だ。かうまでして下面に空気を流し込んだのだから、上面なんて段差ができようが知つたこつちやない、どうせすぐにヘルメットに当つて乱れるんだから。…つてなあたりがデザイナーの言ひ分なのだらう。
しかしこれ、メカニカルグリップなんて在つて無い様なもんぢやないかな。今年もフロントの外側にろくに熱が入らなくてアロンソが苦労する姿が今から目に浮ぶよ。いくらハミーでもこれを何とかできるもんだらうかね。