大和但馬屋日記

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おほしむ

yms-zun2007-10-10

ネット上の評判をあちこちで読むところによると、「Halo3」のリプレイモードとやらが凄いらしい。カメラを自由に動かせるため、その時フィールド内で同時多発的に起きてゐることを詳らかに観察できるとか。なんか聞いただけでワクワクする機能ではないか。といふことは、オンラインマルチプレイで協力者を集め、シナリオに則つた「演技」をすれば、編集次第で一本の映画にすらできるかもしれないぢやないか。ボイスチャットまでは保存できないだらうから、台詞は全部アフレコにしないといけないけどさ。
ゲームの性質的にどこまでネタビリティがあるかどうかとか、日本人との相性はどうかとか、いろいろあるからまたぞろムーブメントが起きるかどうかは分らないけれど、面白いものが出てきたらいいなあといふ期待くらゐは持つても罰は当るまい。
で、さういふ仕組の持つ可能性についてモヤモヤと妄想してみた。丁度、「Halo3」のことを知つた時にANIMAXで録り溜めてゐた「おおきく振りかぶって」を観てゐて、野球ゲームの様な仕組を使つてこれを完全に再現できないかな? と思つた次第。
おお振り」の作劇のクオリティは今さらここで褒めそやすまでもなく素晴らしい。けどまあ、手法としてはオーソドックスであり、古くは「ドカベン」、やや下つて「タッチ」終盤の試合描写などで確立されたものだと思ふ。もちろんそれらに比べても最高級に面白いのは言ふまでもない。
このオーソドックスな作劇法については、以前にも一度考へを巡らせたことがある。

もう四年も前か。大昔だな。この時に書いたのは、「おお振り」の如きオーソドックスな演出手法に対する新たな表現手法として、実時間に近い戦ひのドラマを3DCGで表現したのが劇場版「頭文字D 3rd Stage」であるといふことだつた。オーソドックスな手法とはこの場合、選手やベンチの心理描写や状況説明にたつぷり時間を割いて、一試合に相当の話数を費やすことを指す。「おお振り」の場合、各イニングの攻守一回ごとに一話を使つて試合を描写してゐる。それが単なる尺稼ぎではなく、描写の濃密さからくる必然性に支へられてゐるから「おお振り」は面白いのだが、ではこれを、もう一度実時間に戻してみてはどうか。さういふことを考へた。
作品の体裁は、昨今の現世代機で動作する野球ゲームそのものである。我々はそこで西浦高校と桐青高校の試合を、実際の高校野球の中継を観る様に鑑賞できる。実際に観られるのは、まださういふものは実在しないだらうが、野球ゲームの一試合分の完全なリプレイ再生。早送りや巻き戻し、一時停止やスロー再生はもちろんのこと、カメラを自由に動かして(あるいは切換へて)各選手やベンチ、観客席にまでクローズアップできる。試合時間中に起きてゐるすべてのことを観察できるカメラ。もちろん、選手や観客同士の会話や表情も見聞きできる。
さういふものが、完全な新作の「映像」作品として出てきたとしたら、それは大して面白いものではないかもしれない。映像にはやはり脚本と演出が必要だ。考へが古いと言はれようとも、古い考へにはそれなりの時間の重みと裏付けがある。脚本を排した前衛藝術的映画など、それこそ黴の生えた古臭い手法にすぎない。
しかし、例へば「おお振り」のやうな脚本を持つたドラマが、実際の試合としてはどう見えてゐるのか、興味はないかい? ワシはすごく興味がある。是非それを見たい。誰か作つてくれないか。
とかなんとか、「Halo3」のシステムの話を聞いて、まるで十数年前にハッピーなメディアのクリエイターが言つてさうなことを今さらの様に夢想したのだつた。当時誰かが流行らせようとした「インタラクティブななんたら」とは別の、ドラマシミュレータみたいな作品が、一度でいいから見てみたい。一度で沢山だつたとしても。
特定のカメラを通したシーケンスでなくフィールド全体を記録して後から再生できる仕組といふのは今まで乗り物系のゲームでしか実現されてこなかつたんぢやないかと思ふけれども、いよいよそればかりではなくなつてくるのだから面白い、と同時に少し恐ろしいではないか。

あー。マシニマといふ言葉と概念は聞いたことありますが、上で書いた様なことと私の中で結びつかなかつた。何故だらう。まあ、自分にとつてのリアリティが今まで無かつたといふことだと思ふ。何周遅れてんのか。御指摘感謝。