大和但馬屋日記

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廣辭苑前文方式

詳細は上記キーワードを参照のこと。
舩木直人さんに頂いたコメントや道閑さんに頂いたトラックバックの通りで、一昨日から今日の途中までに更新した日記・コメントへの返答・bookグループ記事の全てにおいて、「現代仮名遣い」への置換へを強要されるかなづかひを一切排除してみた。「現代仮名遣い」だけを見慣れた人には一切違和感を与へずに、しかし実体としては正かなづかひを維持した文章といふことになる。
これは、実際にやつてみると分るが、非常に疲れる。具体的には以下のやうな語が使へなくなる。

ほぼ全ての動詞の未然形
「いかう」「読まう」「買はう」など全て駄目。ただひとつ、抜け道として「しよう」が使へるので「いくことにしよう」などと書く羽目になるが、不必要に「こと」に頼つた日本語は好かんので精神的によろしくない。
ハ行の動詞
「いふ」「思ふ」「考へる」「使ふ」。日常の思索に関する動詞がことごとく使へなくなる。これが一番堪へた。しかし、これは普段如何に「〜だと思ふ」を濫発してゐるかを思ひ知る切掛けともなつたので、今後も少し気をつけようと思ふ<言つたそばからこれですか。
副詞の「かう」「さう」
「このやうに」と書換へやうとして、「やう」も使へないから「この様に」とか「こんな」とかにすると、ニュアンスが変つてしまふ場合も少なくない。
促音便「っ」
ハ行動詞をなんとか誤魔化して使へないかと試行錯誤して「思ふ」を「思つた」にしても、これはこれで駄目なので本当に弱つた。「廣辭苑前文方式」ではよく「っ」だけは許容するといふ手が使はれる様だが、今回は少し意地を張つてみたかつたのだ。
拗音便「ゃゅょ」
あまり困らない。唯一「〜しませう」が使へないのだけはほとほと困つた。
ワ行の平仮名「ゐ」と「ゑ」
丸三年正かなを使つてゐても滅多に「ゑ」なんて出てこないが、「ゐ」は「〜してゐる」の形で多用するので困る。「居る」と書ける場合は良いが、さうでない場合の方が多い。勢ひ、「〜してる」などと書いて誤魔化すことになる。

他にも細かい注意点はあるかもしれないが、主に気をつけるべきはここに挙げた通りである。「とりあへず」を「取敢ず」などと送り仮名でズルをしたり、なんとか別の言回しがないかと考へたり、どうでもいい苦労を随分した。普段滅多にやらない推敲を重ねた割には文章の質が向上した様子はどこにも見当らないから、我ながら何をやつてゐるのか分らない。
このゲームにはさらに「匠モード」があつて、「現代仮名遣い」の病巣である助詞の「は」「へ」「を」も使はない、もちろん「わ」「え」「お」と置換へない、なんてのはどうですか、誰かやりませんか。オレは嫌です。
あとはまあ、アレだ、言葉狩りとそれに付随する言換へ語なんてのもこれと同種の徒労だからやめてしまへ。みんな「放送禁止歌 (知恵の森文庫)」読め、と。
ちなみに「正字も略字も使はない」モードは江洲さんが一昨年の四月馬鹿の日に実践されてゐましたね。
まあ、上記に纏めたやうな点にだけ気を付けてゐれば誰でも正かなが使へるやうになりますよといふ指針にはなるかもしれないから興味ある人は「私の国語教室 (文春文庫)」でも読んでみてくださいな、といふいつもの結論にむりやり落ち着けてみる。
しかしたつたこれだけの縛りでもえらい苦労をするのだから、「残像に口紅を (中公文庫)」を書いた時の筒井康隆のしんどさは想像するに余りあるな。さういへば「幽々白書」でこの小説のアイデアを借用してたな。アニメでその回を見たことがある。

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