大和但馬屋日記

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白兵戦

お言葉ですが…〈5〉キライなことば勢揃い」(高島俊男,文春文庫)をぼちぼちと拾ひ読みしてゐると、なぜ近接戦闘のことを「白兵戦」と言うのだろうといふことをテーマに何章か割かれてゐた。語源とか本来の意味とか広まつた時期とか、興味深い話はいろいろあるがそれは同書を読んでいただくとして、「白兵戦」といふ言葉をオレが初めて知つたのは何だつたかといふ話。
何かといふと、「機動戦士ガンダム」の最終回である。エンジンを破壊されて航行不能になつたホワイトベースが敵要塞ア・バオア・クーに着底し、艦長のブライトが乗組員に「白兵戦の用意をしろ」と命ずる。あるいはそのホワイトベースを掩護するために戦つてゐたガンキャノンも脚を破壊されて動けなくなり、パイロットのカイがダッシュボードから拳銃を取出して「白兵戦かよ!」と毒づきながら機外へ出る。たぶん、同様の経験でこの言葉を知つた人は少なくないだらう。
で、面白いのは「白兵戦」の意味がここで変つてゐることだ。本来は「火兵」に対する「白兵」、つまり銃火器の様に火薬を用ゐない武器といふ意味の和製漢語であるらしい。しかし、「ガンダム」ではブライトが「白兵戦の用意を」と言つたときに自ら火兵の一種であるライフルを手に取つてゐるし、先述の通りカイもまた同様である。あの話のなかで本来的な意味の「白兵戦」と呼べるのはアムロとシャアのレイピアを用ゐたチャンバラだけだらう。つまり、あの世界ではモビルスーツや戦艦などの乗用兵器同士の戦闘ではない、人間同士の直接戦闘を「白兵戦」と呼んでゐるらしい。そして、連邦軍のノーマルスーツ(人間の着る宇宙服)が白いこともあつてか、その表現にまるで違和感がない。物語の状況的な悲壮感も手伝つて、それまで知らなかつた「白兵戦」といふ言葉が印象に残つたものである。
さてここで疑問なのだが、では第二次大戦あたりから現在に至るまで、つまり乗用兵器同士の戦闘が当り前となつてからこちら、「白兵戦」といふ言葉の用法はすでに「ガンダム」世界と同じになつてゐるのだらうか。オレは戦記ものの類を歴史、現代、架空などといつた題材に関りなく全くと言つてよいほど読まないので、実情がよくわからないのだ。
もうひとつ。モビルスーツ同士のビームサーベルによる斬り合ひは、白兵戦と呼べるや否や。