大和但馬屋日記

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「ゼビウス」における動的難易度調整

2008-05-18を起点に、参照されてゐるGamasutra - The Designer's Notebook: Difficulty Modes and Dynamic Difficulty Adjustmentも併せて読んで考へてみた。
「The Designer's Notebook」で触れられてゐる通りで、どのジャンルのゲームを想定するかによつて話の意味も変つてくるからあまり蓋然性のある答は出てこないかもしれないが、とりあへずシューティングゲームにおける動的難易度調整の祖として「ゼビウス」について調べてみた。「ゼビウス」以前にも動的調整の例はあるのかもしれないが、ワシは寡聞にして知らない。少なくとも、「ゼビウス」発表当時にインストカードに記された「地上物のレーダー(ゾルバク)を破壊すると難易度が下がる」といふ説明は当時インパクトをもつて受け容れられたのは事実だらう。
ナムコミュージアムDS」に収録されてゐる「ゼビウス」にはプレイナビといふ機能が搭載されてゐる。DSの二画面のうち、空いてゐる方にワイヤーフレーム状のマップ画面が表示され、隠しキャラであるソルの位置やスペシャルフラッグのラインが表示される他、その時点での難易度がリアルタイムで表示される様になつてゐる。これを利用すると、今までROM解析できる人にしか分らなかつた「ゼビウス」の難易度の仕様についてかなりの部分まで把握できるので少し調べてみた。

難易度(DIFFICULTY)の仕様

  • 取り得る範囲はは0≦DIFFICULTY≦255である
    • 但し、127<DIFFICULTYとなつた場合、次のランク更新のタイミングでDIFFICULTY-64となり、原則として64≦DIFFICULTY≦127に収まる
  • 一定時間毎に+2づつ加算される
    • 加算される時間の間隔は一定ではなく、エリアやディップスイッチのランク設定によつて変化する
  • ある地点に達するごとに、その場で設定された量だけ加算される
  • プレイヤーのミスによつて-16下がる
  • ゾルバクを一基破壊すると-2下がる
  • 空中物を積極的に破壊すると+2
  • DIFFICULTYは空中物の出現テーブルに影響を与へるが、地上物の攻撃頻度には一切干渉しない

とりあへず、何度かのプレイによつて知り得たのはこれだけである。

DIFFICULTY変動の調査

では、プレイヤーがどの程度この難易度が操作できるものか、実際に試してみた。まづは、DIFFICULTYを可能な限り低く抑へるプレイ。ザッパーは一発も撃たず、地上物はゾルバクのみ破壊して進めるだけ進んでみた。各エリア終了時点でのDIFFICULTYの値と、そのエリアで登場した不確定空中物の対応は次の通り。

AREA DIFFICULTY 登場空中敵
1 8 トーロイド、タルケン
2 0 トーロイド、タルケン
3 0 トーロイド
4 8 トーロイド
5 6 トーロイド、タルケン
6 0 トーロイド
7 0 -

エリア8の序盤でゲームオーバーになつた。調子のいいときはエリア16まで到達できるのだが、まあこんなものだらう。
途中にミスによるランク低下が入つたこともあるので、見ての通り難易度は全く上昇してゐない。トーロイドが弾を撃つことすらなかつた。このプレイで気付いたのが自動的に加算される速度が一定でないことで、エリア5では前半にポンポンと難易度が上がる(後半のゾルバクでここまで抑へこめた)のだが、エリア7では全くといつていいほど上昇しない。エリア7では途中のカピと最後のテラジの二機の固定空中物以外に不確定空中物が存在しないから、ランクも上昇しない様に調整されてゐるらしい。その代り、エリア8に入つた瞬間に+5された。他にも、突然難易度が跳ね上がるポイントが各所に設定されてゐることは確認済である。
次に、所謂「普通のプレイ」をしてみた。流石にプレイ歴二十年超なので、スーパープレイではないにしても全ての地上物の位置を把握して破壊できるものはすべて破壊するといふ意味での「普通」であるから、少なくとも初心者のそれとは異る。

AREA DIFFICULTY 登場空中敵
1 20 トーロイド、タルケン
2 10 トーロイド、タルケン
3 28 タルケン、ゾシー
4 32 タルケン、ゾシー、ギドスパリオ
5 50 ゾシー、ザカート、ジアラ
6 42 ザカート
7 30 -

まあ、「ゼビウス」にそこそこ詳しい人なら大体「そんな感じだよね」といふ空中物の出現順になつてゐると思ふ。
注目したいのはエリア5でランクが跳ね上がつてゐることと、エリア7で大幅に低下してゐること。どちらも前述の通りの振舞ひであるのだが、特にエリア7でランクが上昇せず、ゾルバクを破壊した分だけ下つてゐることは注目に値する。何故なら、このゲームの最終エリアであるエリア16をクリアすると、ループして戻されるのがこのエリア7であるからだ。
ここは、エリア16の地獄の様な猛攻を抜けたプレイヤーにとつて、バキュラ以外に殆ど空中物が居ない、そしてスペシャルフラッグや一万点グロブダー、そしてナスカの地上絵といふ「観光名所」まで存在する「休憩エリア」である。普通にマップ構成だけ見てもそれは明らかであるが、実は内部的なランク調整によつてもそれが裏付けられてゐた。この辺りに遠藤雅伸氏の心配りを強く感じる。
その代り、エリア8に入つた瞬間に+16の修正値が入つた。先ほどの低ランクプレイでは+5だつたのに比べると随分差がある。この違ひはどこからくるのだらう。
次に、「ゾルバクだけは絶対に破壊しない」といふ、難易度が上昇する一方のプレイをしてみた。

AREA DIFFICULTY 登場空中敵
1 36 トーロイド、ギドスパリオ、ゾシー
2 36 トーロイド、ギドスパリオ、ゾシー、ジアラ
3 74 タルケン、ゾシー
4 102 タルケン、カピ、ジアラ、ザカート

エリア2でランクが上昇してゐないのは、途中でミスして-16補正されたから。それでも、また元のランクに戻つてゐる。以後のランク上昇具合は一目瞭然、このまま続ければエリア5でブラグザカート出現は確実といつた有様である。
以上の様に、ゼビウスの動的難易度調整はプレイヤーによつて大幅に操作可能であることは証明できた。

動的難易度調整の有効性

では、「ゼビウス」においてこの動的難易度調整が有効に機能してゐるか。先に、わざと否定的な要因を並べてみる。

難易度が頭打ちになり収束するのが早過ぎる

DIFFICULTYの上限は127ではないが、前述の通り127を超えると次の更新タイミングで-64の減算処理が入る。つまり、DIFFICULTYは64〜127の間に簡単に収束する。先の検証で見た通り、DIFFICULTYが64を超えるのはそれほど先の話ではない。また、後半になるほどDIFFICULTYの上昇頻度が増してくるが、それはつまり「すぐに64に戻る」ことも意味する。

高い所で収束した難易度がそんなに難しくない

DIFFICULTYはあくまで不確定空中物の出現テーブルを操作するものとしてしか機能しない。空中物の中でプレイヤーにとつて嫌な存在といふと「テラジ」「ブラグザカート」「タルケン+ジアラ」あたりになると思はれるが、それらの凌ぎ方を把握すれば特に難しすぎるといふことはない。

ランク調整の矛盾

例へば、地上物の攻撃の激しいある地点で前述の様な「嫌な敵」が出たとする。当然の結果としてミスをする。DIFFICULTYは減少し、敵の出現テーブルもそれに応じて戻され、プレイヤーはエリアの始めに戻される。すると、先刻のやられた場所でまた同じ「嫌な敵」が出る、といふことが頻繁に起こり得る。実は、どうにかしてDIFFICULTYを加算させ、敵の出現テーブルを進めた方が楽になるといつたケースが多い。また、序盤ではわざとゾルバクを逃してさつさとテーブルを進めた方が、得点効率がよい。点数で残機が増えるこのゲームにおいては、より得点を取つた方が結果的に生き延び易い。

等々。まあ、これは言葉の綾ともいふべきもので、「敵の出現テーブル」のことを「難易度」と定義してしまつたから矛盾が起きてゐるだけに過ぎない。「ゼビウス」の実際の難易度には他の要因も複雑に絡んでゐる。

  • 地上物の配置
  • 地上物の攻撃頻度
  • 出現テーブルに拠らないマップ固定の空中物

特にゲームの難易度を決定づけるのは地上物の配置に絡めた不確定空中物の組合せであり、それを乱数に頼らずにテーブルで管理し、プレイヤーの行動でそれを調整できる様にしたところが「ゼビウス」の持つ個性といへるだらう。
ただ、結果として「総体としての難易度」が頭打ちになつてしまひ、全国にカンストプレイヤーが溢れ返ることとなつてしまつたのは、遠藤氏にとつて予想外の出来事だつたと思はれる。とはいへ、現在の様にリリース直後にあつといふ間に攻略し尽されて捨てられた訣ではなく、数年に及ぶロングヒットで初心者を上級者に育て上げたのだから、決して失敗だつた訣ではない。

むりやり結論

ゼビウス」における動的難易度調整機能は、プレイヤーに常に最適な難易度のゲームを提供するものではなく、毎回異なるプレイ体験を提供するために存在してゐるものと考へられる。

ゼビウス」以後

「ループする地上マップと空中敵の出現テーブル」の系譜としては「スターフォース」がある。これについては何度も語つた。あれは最高だ。他にランク調整機能を売りにしたゲームとしては「ザナック」を思ひ出す。
その後、「ガンフロンティア」や「バトルガレッガ」などの様な「知らずに普通のプレイをすると地獄を見る」といつた本末顛倒なゲームが出るに至り、このシステムにはちよつと無理があるんではないかといふ気が個人的にはしてゐる。アーケードのシューティングゲームにおいては「プレイヤーを早く殺すほど良い」といふ経営側の要請があるから、難易度調整は単純に面白さを追及したものとは考へにくい側面もある。
難易度は固定でプレイヤー側の行動にリスクを強いる方法としてスコアアタックゲームにするといふ手がある。ワシはアーケードの「マクロスII」が大好きだつたのだが、まだ当時は「上手くなるほどプレイ時間が長くなること」がプレイヤー側の要請として強くあつたから、時間制スコアアタックといふシステムは拒絶されてしまつた。家庭用のキャラバンシューティングとしては受け容れられたのに、不思議なものだ。
他にもネタはいくらでもダダ漏れてくるが、長くなりすぎたのでとりあへずこれで終り。今更「ゼビウス」語りもないもんだ。

「このシステムにはちよつと無理があるんではないか」についての補足

要は「バトルガレッガ」の「沢山死んでわざと難易度を下げる」「沢山死ねる様にスコアを稼いで残機を増やす」といふ仕組が大嫌ひなのだが、なぜそれが嫌ひなのかといふと、ゲームの背負ふストーリー性といふか世界観的に、途中で死ぬのは無しなんぢやないの? といふ古い価値観から逃れられないからだ。
「死んでも何事もなかつたかの様に再スタート」といふことに対してビジュアル的あるいはシステム的に説得力のある「逃げ」を用意してくれてゐたら、たぶんさういふ風には考へずに済んでゐたのだから、要は自分が見た目に囚はれてゐるだけの話だとはいへる。しかし一方で「どうせ雰囲気に凝るならそこまでやつてくれよ」とも思ふ。我ながら矛盾してゐるなあ。

分らない人が見たら呪文ですと?

これ見て勉強すればいいよ。

  • 2008年07月17日 havanaclub
  • 2008年06月09日 Masao_hate ゲーム開発 参考にする。
  • 2008年06月08日 agw Game, Algorithm
  • 2008年06月08日 no5no5 Game
  • 2008年06月07日 korinchan ゲームデザイン
  • 2008年06月07日 firestorm
  • 2008年06月07日 RanTairyu ゲームデザイン 「このエントリーをブックマークしているユーザー(6)」
  • 2008年06月07日 xmx3 ゲームデザイン
  • 2008年06月07日 nibo-c STG 『ゲームの背負ふストーリー性といふか世界観的に、途中で死ぬのは無しなんぢやないの? といふ古い価値観から逃れられない』←同じく
  • 2008年06月07日 Nao_u ゲーム
  • 2008年05月31日 stupa
  • MAROYAKA ゲーム, ゲーム考察, ゲーム可能性 2008/12/17