大和但馬屋日記

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言葉の簒奪者


「ことばは、自由だ。」なる古くさいキャッチコピーを見て、本氣でさう考へてゐるならば辭書の編纂など辭めてしまへばよいと思つた。少なくともその頭にある「新村出編」の文字を取つてしまへ。その編者が廣辭苑の前文をどの樣な思ひで書いたか。

終生京都に在住して辞書編纂に専念し、1955年(昭和30年)に初版が発刊された『広辞苑』の編纂・著者として知られる。息子の新村猛がこの共同作業に当たった。出は新仮名遣いに反対し、当初予定の『廣辭苑』が『広辞苑』に変更になったときは一晩泣き明かしたという。そのため『広辞苑』の前文は、新仮名遣いでも旧仮名遣いでも同じになるように書き、せめてものの抵抗した。出はまた形容動詞を認めなかったため『広辞苑』には形容動詞の概念がない。

自由なのは言葉ではなく言葉を用ゐる者の意思、思想、行動、さういふものだ。