大和但馬屋日記

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決勝(十月十日記載)

清清しい朝、宿の広間の障子が美しかつた。さぞや外は素晴らしい風景だらうと思つて開けてみたらわりとガッカリするんだけど。でも紅葉の季節になつたら綺麗だらうね。

宿からサーキットに移動して、まづは不要になつた手荷物を宅急便で自宅に発送。なるべく手ぶらで動く方がいい。
午前中は重苦しい雲がサーキットの上空にでんと居座つて、肌寒さを感じるほどだつた。しかし昼に向つて日が差してきた。インテグラカップの決勝を見て、大会記念式典で偉いさんの話に耳を傾けて、その後はヒストリックカーの走行。'88年のマーチ881、'90年のラルース・ローラ90、'91年のマクラーレンMP4/6の三台が当時のドライバーの手で走るといふ趣向で、それぞれ鈴鹿で見せ場を作つたマシンだけに感慨は深い。しかしローラ90はダンロップからデグナーに向ふところでストップ。エンジンが音を上げたらしい。ローラを駆るのは当然ここで表彰台に立つた鈴木亜久里だが、決勝レースのスーパーアグリは大丈夫かとつい思つてしまつた。一方、マーチを駆るカペリとマクラーレンを駆るベルガーは絶好調。最終コーナーの立上りでカペリはベルガーを抜いて見せ、一コーナーでベルガーに抜き返されてゐた。これはいふまでもなく、'88年にカペリがマクラーレンプロストを一瞬抜いてラップリーダーになつた名シーンの再現である。憎いことをやつてくれる。
そしてレース。絶妙なピット戦略でマイケルがトップを守る。目の前をサスペンショントラブルでクラッシュしたアルバースが横切る。目の前にドライブシャフトが落ちてゐる。マーシャルが決死の覚悟でそれを拾ふ。歓声。マイケル依然トップ。しかし、視界の先の、さつき亜久里がマシンを止めたあたりでスピードが落ちていく赤いマシン。デグナーを曲つて肉眼で見えなくなる頃には白煙も見えたかどうか、よく覚えてゐない。
がつくりとテンションが下つて、その後の経緯への興味がなくなつてしまつた。最後まで力が抜けてしまつて、もしかしたら同行の友人達にまで変な気を遣はせてしまつたかもしれない。もしさうだとしたら申し訣ないことをした。ともあれ、レース終了後に運ばれて行くフェラーリを見納めとカメラに収めてサーキットを後にした。

これで、十三年間欠かさず通つた鈴鹿ともひとまずお別れ。他のレースを観に来ないとも限らないけれども、まあ、当分はないだらう。しかし永遠の別れといふ気は全然しない。いつかきつと日本GPはまた鈴鹿のものになるだらう。さう思つてる。来年、FISCOに行くかどうかは分らない。行きたくない訣ではないが、行かなくても別にいいやといふ気がしてゐる。