大和但馬屋日記

はてなダイアリーからの移行中

国益、ですか

yms-zun2006-08-17

その場の損得で行動を決定する打算的な人なり国なりが、果してどこまで他国からの信頼を得られるだらうか。

この記事を賛意を添へて紹介された乱土さんのことをどうかうは思はないけれど、自分はかうした問題を「国益」のみの観点で扱ふ姿勢そのものに大きな疑問を感じる。
国益のためといふなら、日本が戦争を起こして負けて現在の「問題」に至つたのだつて、当時の国益には沿ふものと考へられてゐたはず。そこから遠い未来である現代になつてその是非を問ふことが無意味だとは言はないが、では今「国益」とやらに従つた行動をとつて、それが五十年なり六十年後にどう評価されるかまで責任が取れるのだらうか。
そも、国益に適つたかどうかの判定はいつ誰がするのか。経済の話で、短期的に儲つてゐてもそれ自体が大きな落し穴への布石だつたなんて事例には事欠かない。そんなこと誰だつて知つてゐるのに、少し隣の国が騒いだからといつて「国益に反する」と極め付けるのはそれこそ知的怠惰といふものだらう。先のことなんて誰にも読めはしない。小豆の値段に一喜一憂するのと同じレベルで国の在り様を論じて良いものか。小豆相場なぞに手を出して良いのはそれで失敗しても破産しない算段を持つ者に限るとワシは思つてゐる。では国益が致命的なレベルで損なはれた時、我々の住むこの国はどう振舞へるだらう。ワシにはとんと想像できない。ただ「あの時うまく足抜けしてゐればここまで大損しなかつたのに」と後悔するバブル破綻後の経済人の姿だけがリアルに想起される。この国の(ひいては自分の)振舞ひを想像できないのはワシ自身の怠惰によるものだが、では「国益」優先の考へを支持する方々はどうか。その「国益」を優先して行動した末に不幸にもそれが徹底的に損なはれたとき、あなた方はどういふ態度をとるのかと。そんなのは結果論に過ぎないと仰るかもしれないが、よろしい、では結果論に過ぎないものを発端にして事を判断するのは本末顛倒であると、あるいは獲らぬ狸の皮算用であるとはいへないだらうか。 ワシはさう思ふ。
日本は永遠に日本であることをやめられない。それこそ島ごと沈没しない限りは。それは日本に限らずどこの国でも同じだ。さすがに今の世の中、国がそつくり滅ぶなんてことはまづ有得ないわけで。そして、これもたぶん世界中どこでも同じだと思ふのだけど、「他国がどんな顔をするか」で行動を決める様な国といふのは、とてつもなく恥かしい存在だと思ふ。恥かしくとも生延びれば勝ちだといふ考へがあることまでは否定しないが、さて損得勘定でどこまで生延びられるかといふと、それも甚だ怪しい様にワシには思はれる。それとも誰かがそれを保証してくれるのだらうか。内田樹なる人物にはそれが可能だと? もちろん、国土が沈没しない限りどんな在り様であつても「生延びる」ことにはなるが、それは彼らの望んだ姿なのか。
靖国参拝の支持・不支持についてどうなのかと問はれれば、ワシにはどちらとも答へやうがない。といふか、マスコミや言論が総じて「支持か不支持か」の二択しか突きつけてこないあたりに底知れない絶望を感じる。ただ、小泉首相もまた同じ二択の論法にわざと乗つて輿論を騒がせてみただけなのだとしたら、それはくだらないことをしたと思ふが、その真意を問ふ手段はワシにはない。
とりあへず、現時点から将来に向けて、日本が恥かしくない国であつてほしいとは思ふが、ではどうすれば恥かしくないのかといふ点において短絡的な答へには飛びつきたくない。「恥かしい云々とは、結局他国の評価を気にしてゐるのではないか」といふ予想され得るツッコミに対しては、「恥かしいか否かを決めるのはまづ自分だらう」と答へておきたい。
といふか、何よりも「他国の顔色」が先に立つ議論がをかしいのだ。まづ自分なりの定見*1を持つて、その是非を堂々と他国に問ひ、その上で擦合せるか突張り通すかを決めるのが筋なのではないか。総理が代れば変る程度の顔色を気にして何になるのか。

追記

あれこれ後から書足してゐたら、誤つて別のマシンから書き足した関係で半分以上のテキストが飛んでしまつた。こんな時に限つてはてダラを使つてゐない自分を呪ふ。決して何かを隠蔽しようとしたのではなく、ただの操作ミスである。折角書いた時間を無駄にしたくはないから、どなたか消失分をお持ちであればお知らせ願ひたいくらゐだが、論旨は上記分でほぼ言ひたいことのすべてなので、特に問題はないと自分では思ふ。

さらに追記

OperaRSSフィードに残つてゐるのを発見。無事復旧できた。ああよかつた。‥‥と書いて横目でみたらRSSフィードが飛んだバージョンに更新されてしまつた。危ない処だつた。セーフ。自分のサイトのRSSを取得することに意味があるかないかといへば、かういふ時に意味が出てくるんだらうな。

  • 2006年08月17日 kurokuragawa 靖国, みんな, 日本, 外交 「といふか、何よりも「他国の顔色」が先に立つ議論がをかしいのだ。」

*1:これまた誤解を招きさうだが、国内で対立する意見をどちらかに捩じ伏せるべきだといふのではない。対立した意見の両方を併せて初めて「これが日本だ」といへるのだ