大和但馬屋日記

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似てるやうな似てないやうな

自分にとつて「ARIA」がよくて「ヨコハマ買い出し紀行」が駄目なのは何故か考へてみたが、決め手となる答へが出ない。どちらも同じ程度にあざといのだけど。
結局オレにとつての漫画は「絵」なのかもしれん。基本的に表紙買ひだし。巧いか否かといふよりは好みに合ふかどうか。だから、オレは自分のことを「漫画読み」だとは思つてゐない。以前はそのことを恥かしいと思つてゐたかもしれないが、今はさうでもない。たぶんこの辺が答へ。あと、「ヨコハマ〜」の「男のブンガク臭さ」がある日突然鼻についたのを思ひ出した。それまではずつと読んでゐたのだつた。

それあ現実にパリ砲なんてものもありましたが

疾走! 千マイル急行 (下)(小川一水, ソノラマ文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

疾走!千マイル急行〈下〉 (ソノラマ文庫)

疾走!千マイル急行〈下〉 (ソノラマ文庫)

上巻で物足りなく感じた部分をすべて払拭し、結末まで一気に駆け抜けた。お見事。テオは主役たらんと自分の足で立上り、周囲の大人がそれを支へていく。それでいい。
存分に楽しんだけれども、まあ何だ、鉄道で戦闘を行ふといふのが如何に有得ないことかもよく分つた。宇宙空間で艦隊戦を行ふのと荒唐無稽さで争つてみればなかなか甲乙付け難いのではないかと思ふ。片や空間が一次元の軌道上に限定されすぎるし、もう一方は空間が全方位に広がる割に「天体(宇宙戦艦のことだ)」の運動はやはり重力の制約を受けた限定的な軌道に縛られるはずで、大海原を自由に航行するやうにはとてもいかない。もちろん、だからこそ想像の仕様によつていくらでも面白くできるわけだが。その点で小川一水はよくやつた。
あとがきについて。「そんなに気楽に電車に乗るなよ! 」は、成程これがアイチ圏*1の人の感覚なのだらうな、と思つた。首都圏と関西圏ではまたそれぞれに感覚が違ふし、地方に行くほどその意識の格差は拡がるばかりだらう。京阪間の衛星都市出身の自分にとつては、鉄道とは私鉄VS国鉄の激しくも華々しい激戦のフィールドといふ感覚が強い*2。子供心にも理解できるほど目に見えて向上していく過剰なまでのサービス合戦、それ故に贔屓の電車に乗つて感じた奇妙な優越感やライバル線に乗つて感じた微妙な羨ましさは、この小説アルバートが抱いたものとたぶん同質のものだつたのだらう。結局そのサービス合戦に在阪各社は疲弊しきつてしまひ、悲劇的な象徴として例の事故が起きたことを、オレは忘れないやうにしようと思ふ。でもそれは、オレ達利用客が求めた利便性の結果なのだよ。作中でドラグストン機関が求めたものと、少しも変らない。

はい、こちら国立天文台―星空の電話相談室(長沢工, 新潮文庫) - 大和但馬屋読書日記 - bookグループ

はい、こちら国立天文台―星空の電話相談室 (新潮文庫)

はい、こちら国立天文台―星空の電話相談室 (新潮文庫)

なんだか小川一水小説みたいなタイトルだな。まあ、「現場モノ」の雰囲気を出すには丁度いいのだらう。
国立天文台広報普及室に勤務してゐた著者のエッセイ。面白いことは面白いのだが、読み進めるうちに若干もにょもにょしたものを感じた。あれだ、昔サポセン系サイトを読んだ時に感じたやつ。ああしたものに何の屈託も感じない人が読めば文句なしに面白いのかもしれないが、生憎オレはさうではなかつた。
オレが期待したのはもつと天文台の研究とか運営そのものに寄つた内容であつて、しかしこの本の主題はあくまで電話を通じた相談者とのやり取りであり、そのやり取りの大半は言葉は悪いがしやうもないものなのだつた。なんだか天文学に興味を持つより先に門前払ひを喰つたやうで、なんともやりきれない読後感がある。
ドキュメンタリではなくエッセイなのだからそんなものといへばさうなのかもしれない。でもやはり、過剰なロマンチシズムに満ちた内容である必要はないにしても、「なんか知らんが凄いことをやつてるぞ」といふ期待感くらゐは持たせてほしいぢやないか。的外れかつ高望みなのかな。

*1:「YATATA WARS」て分るかな?

*2:この気分を見事に描き出したのが同人漫画の「電車でD」だ