大和但馬屋日記

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科學が教養だつた頃

單に學研の圖鑑は凄かつた、ばかりでなく昭和五十年代までは各社からかうした圖鑑のセットが出てゐて、訪問販賣で子供の居る家庭が狙ひ撃ちにされ、半ば押賣りの様に買はされた。うちは國際情報社の全二十巻セットを買はされてゐて、俺は貪る様にそれを讀んでゐた。たぶん初めて見たF1マシンはその圖鑑にあつたティレル005だつたと思ふ。

全二十巻の最後の巻は「未來物語」と題して將來の科學技術の發展を基調とした未來像を樂觀的に描いてゐた。その巻末附近の二色刷のページには海外のSF小説の粗筋が一作毎に見開きで紹介されてゐて、クラークの「海底牧場」やブラッドべリの「華氏四五一度」などをそれで讀んだのが俺のSF原體驗。まあ濱村淳の様な解説口調で話のオチまで全部書いてあるから後になつてみれば酷いネタバレを喰つたともいへるが。「華氏四五一度」なんかこんな調子の出だしだつたと憶えてゐる。「ガイ・モンターグはファイヤーマンです。といっても消ぼう士ではありません。くろ光りするへルメットとスーツに身をつつみ、火えんほうしゃきをかかえた、かっこういいファイヤーマンです。」みたいな。うろ憶えだけど。俺、この小説のタイトルをずつと「ファイヤーマン」だと思つてた。地球が地球が大ピンチ、より先にこつちを知つてたレベルで。

今にして思へば、あれは何だつたんだらうなあ。SFが基礎教養と見倣されてゐた時代が確かにあつたんだらうか。圖鑑たるものの性格上、全二十巻の中に文學的なものは基本的に含まれてなくて、そこにわざわざ掲載されてゐたといふのはね。まあ擔當者の趣味と言つてしまへばそれまでかもしれんが。