大和但馬屋日記

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「日本スゴイ」への逆張りを拗らせただけの陳腐な意見に對する反論

"0系は慢心の結果他国に遅れを取った説 - Togetterまとめ'
なかなかに酷い暴論。反論はコメントにも書いたけれども、改めて大まかに纏めると次の通り。
高速鐵道のポテンシャルは車輛單體の性能もさることながら、路線の地形的な形状、路盤の工學的な設計と施工レベル、運行システム等々の總合的な技術レべルに左右される。東海道新幹線は戰前から接收・買收を進めてゐた用地の上に昭和三十年代の技術レべルで建設された路線であるから、車輛の性能だけを幾ら向上させても路線の制約によつて高速化に齒止めが掛つてしまふことは、後世の300系電車や500系電車が証明した通りである。線路設備の向上が車輛開發より急務であつたことは山陽新幹線や東北・上越新幹線の技術的知見によつて示されてゐるし、上越新幹線は豪雪を伴ふ山岳路線であるにも關らずトータルの走行性能によつて當時の東京-新潟間の航空路線を癈止に追込んだ實績がある。
高速性能がシステム全體の問題であるとの認識がなければ國鐵がリニアモーターカーの開發に着手することもなかつたであらう。日本でTGVの方式を採用するのが難しいこともそれこそTGV開業當時から指摘されてゐたことで、TGVか出現して慌てて新幹線のさらなる高速化に着手したなんて事實はどこにも觀測できない。新幹線は車輛以前に課題が山積してゐたのだ。それら事情やその後の時代の趨勢など一切考慮することなく慢心とやらに責任を歸して日本人の氣性を語るなんて、他の誰かならともかく直近にレッドブル・エアレースや航空宇宙についてのジャーナリストの役割を語つた人がこれを言つたのだからどうしやうもない。それらの記事についても相當に割引いて讀む必要があるだらう。
そもそも新幹線に0系電車なんてものはなくその呼稱は100系電車の登場による區別の爲の便宜的なレトロニムにすぎないのだから、公的な根拠で以て「零式」といふ形式を與へられた戰闘機とは全く名の持つ意味から異なる。それを無理矢理「ゼロ」で結び付けるなんて牽強附會もいいところだし、電車は戰闘機と違って直接性能競爭をすべきものでもない。開業後に人的大事故を起したことのあるTGV含む他國の高速鐵道に對して、一度もシステムに起因する人的事故を起すこともなく日常の足として驚異的な輸送密度を實現してゐる新幹線の何が他國に遅れてゐるといふのだらう。これら事實を竝ベるだけで「ハイハイ日本スゴイ日本スゴイ」と片付ける様な頭で書かれた人の記事なら、他の事でも話半分で讀むしかない。
「技術者の慢心で他國に遅れをとつた」なんて胡亂で愚かな精神論でしかないし、「日本スゴイ」を茶化す爲にそれと同じレベルで下らないことを言つたものだとしか思へない。他國の車輛を買つてきて走らせた方が新幹線システムの輸送效率やサービスの質が明らかに向上するといふ試算の上で言つてゐるのでなければ「他國に後れをとつた」などと言ふこと自體がただの寝言なのだ。