大和但馬屋日記

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今日のゲーム(十月十二日)

Geometry Wars:"Waves":(Xbox360,Microsoft/Bizarre,ASIN:B000RP5QIY)PGR4 -プロジェクト ゴッサム レーシング 4-(初回生産限定版:キャンペーンコード同梱) - Xbox360

一体この世に唯一最高に面白いビデオゲームがあるとして、それは何かと問はれれば迷はず「ジオメトリーウォーズ」と答へるのが世の習はしといふものであるが、その最新作がこれだ。買つて開封してぶつ続けで三時間。右スティック操作を司る手指に激痛が走つてやうやく諦めた。
一体この世にまともなゲームのクリエイターが居るとして、それが誰かと考へるに「ジオメトリ」の作者のことを言ふのだと思ふ。何がまともかといふと、自分の作るゲームの面白さの肝をきちんと把握してゐて、そのためにきちんと取捨選択ができるといふところだ。
今回の「Waves」も基本は前二作と同じだ。左スティックで移動、右スティックで任意の方向にショット。ルール:生残れ。以上。さう、以上なのだ。今回はなんと、緊急回避のボムがない。それどころか、残機の概念もない。さらに加へて、ショットのパワーアップもしなくなつた。シリーズ始まつて以来の弱体化である。
では敵の攻撃でバランスを取つてゐるのかといふと、さうでもありさうでもなし。少なくとも、易しくなどなつてゐない。むしろ劇的に難しい。前作「EVOLVED」をそれなりにマスターしてゐないと、十秒もせずにゲームオーバーとなる。
単に難易度が変つたのではなく、敵の移動アルゴリズムの違ひによつて、従来と同じ操作でもプレイヤーに全く異なるプレイスタイルを要求する。「EVOLVED」に存在した一つの極意を「Waves」はあつさりと否定した。
「EVOLVED」の敵は、一部を除いてほぼ全てがプレイヤーを追ひかける動きをする。そして、プレイヤーよりもやや足が遅い。故に、プレイヤーは進行方向にショットを撒いて安全を確保しつつ敵の大群を引き連れて逃げ回ることが出来る。どんなに敵が増えても基本は変らない。突破口が開かない時はボムを使へば良い。
Waves」になつて、前作の敵は殆ど形を潜めた。その代り、一貫してプレイヤーのことを全く見ない、ただ直進するだけの敵が横一列に隊列を組んで一定間隔で襲つてくる。この、プレイヤーを全く見ない動きが恐ろしい。何しろ誘導が効かないのである。前方だけ撃つてゐても血路が開かないのである。これは最早、敵ではなく自然現象だ。知性を持つ相手なら出抜くことも可能だが、知性を持たぬ「現象」には抗へない。この間断なく襲つてくる横一列の波状攻撃故に、この新作は「Waves」を名乗つてゐる。
自機はパワーアップとボムと残機を失ひ、敵は知性を失つた。たつたそれだけで全く別のゲームになつた。勿論、それ故に「EVOLVED」と比べて「Waves」の方が圧倒的に面白くなつたとは言ひ難い。一本のゲームの出来としては「EVOLVED」の方が上だと思ふ。しかし、「EVOLVED」に浸つた頭に「Waves」の持つシビアさは何とも刺激的だ。
何かの続編を作らうとして、かくもバッサリと各要素を削れるのがこのゲームの作者の凄いところだ。凡百のゲームは、あれこれ要素を継ぎ足して肥大化する方向を選ぶ。やれパワーアップの種類が増えました、自由に装備を選択できます、ステージ制にして好きなルートで進められます云々。何故さうする必要があるのか、一つ一つの要素が面白さに繋がつてゐるかを吟味することなく、ただ「前より凄くなつたでせう、だから買つてね」と言はんがために。だから2Dシューティングは駄目になつた。シューティングの可能性とやらが存在することを証明しようとしてプレイヤーに余計な操作を強要し、「何故さうするのか」を置去りにしてディテールばかりに凝つてみせる。もう沢山だ。「ジオメトリーウォーズ」にしたつて、他社の作るWii版とやらをネット上の映像で見る限りでは同じ轍を踏んでゐる様にしか見えない。やらない内からかう決めつけるのは馬鹿のすることだが、馬鹿なワシはあれのことをきつと詰らないと思つてゐる。
Waves」だつて遊んでみるまでは不安だつた。前作に余計な要素を加へて量的進化といふごまかしで茶を濁してゐるのではないかと心配した。でも、違つた。良かつた。
否、否、否。「ジオメトリーウォーズ」も量的進化の皮を被つてゐるのだ、その外側に。ステージが増えた、グラフィックが強化された、オートバイも使へる様になつたといふ贅沢なクルマゲームの皮を。しかし、そんな皮を脱ぎ捨てれば、核として至高のゲームが存在する。「ジオメトリーウォーズ」は凄い。

  • 2007年10月12日 wtnb18